第15話
夏休みがやってきた。リオンは渡された成績表を恐る恐る覗きこんだ。
『どうだった?』
俺も気になるのでズバリと聞いた。
『“良”だって!』
『進学できそうか?』
『それはまだわからないけど。』
どれくらい成績良ければ進学できるんだろうな?リオンがティム出来ている動物はちょっと特殊な俺とジュエルウェザーバードだけだ。もうちょっと一般的に「すごい!」と言われる種類が欲しいところだが。ジュエルウェザーバードは実際のところ凄いが種族が他人に知られるとあらゆる方法で強奪されそうなので公にできないし。まあ無い物ねだりしても仕方ない。
『夏休みはどうするんだ?実家に帰るのか?』
『実家に僕の居場所はないよ。ラヴィはどこか行きたいところある?』
リオンは実家でどういう生活を送っていたというのか。家族に疎まれてたのかな?
『そうだなあ。別の街が見たいな。』
『じゃあ旅行にでも行く?』
『そうだな。予算は大丈夫か?』
『サニーのおかげで余裕あるよ。それに折角の長期休暇にどこも行かないのも人生損してる気がするしね。』
『そうか。』
因みにお金になると分かったので俺はちょくちょくブラックスネークを狩ってはリオンに解体させて小遣いを稼がせている。肉は森で取ってきて食費削減。しかしリオンに3日に1度は湯屋に行かせてるし、石鹸も定期購入している。服だって季節に合ったものを買わせているので出費は多い。サニーの宝石は一週間に一度くらいの間隔で排出されるらしい。今回は親指の爪くらいの大きさのルビーが排出された。卵を産むかのようにポロリと排出する。俺とリオンは目が点だったと思う。まだサニーをティムしてから一度しか宝石を手にしていないが、サニー曰く排出される宝石は毎回違う種類のものがランダムで出てくるらしい。大きさもその時々で違うらしいから毎回同じ大きさというわけではない。多分食べる餌やその時の気分などで変化してるんだと思う、というのが本人の弁。サニーの宝石は有り難いんだが毎回取引していたら足がつくと思う。リオンが宝石を得ている方法を知られてしまえばサニーは絶対に強奪されてしまうと思う。それだけならまだしもリオンが害されてしまう恐れもある。売り方を考えなくてはな。
『折角だから海辺の町にでも行こうか?泳いだら気持ちいい…ってラヴィって泳げるの?』
『どうだろうな?少なくとも湖には浮いたが。』
よくわからん。湖でもすぐに陸地に上がれる範囲でしか行動しなかったし。積極的に泳いだことはまだない。
『でも海はいいな。海産物を食ってみたい。』
『じゃあ、決まりね。』
「リオン~!!」
ミュリが教室に取っび込んできた。今日も元気いっぱいである。
「リオンってもしかして夏休み実家に帰らない?」
ミュリはリオンの家庭事情を知っているらしい。
「うん。海に旅行に行こうと思ってるんだ。」
「海?じゃあニャラカに行ったら?私家族とニャラカに旅行に行くの。向こうで会えたら嬉しいな。」
地理の授業で習ったがニャラカは海辺の町だ。エメラルドグリーンの海に白い砂浜の典型的な観光地らしい。少し遠いが長期休みなら行けない事もない。
「ミュリ、実は最初から僕をニャラカに連れていくつもりだった?」
ミュリがてへへと笑った。
「リオンは実家に帰っても窮屈だと思ったから一緒にどうかなって。本当は行きと帰りも一緒に行きたいけど。あんまり付き纏われるのも鬱陶しいかなって。」
「別に鬱陶しくはないけど…」
ミュリがぱあっと顔を輝かせた。
「本当!?じゃあ、行きと帰りも一緒に行ってもいい?」
リオンは少し戸惑って俺に尋ねてきた。
『どうする?ラヴィ。』
『いいんじゃないか?俺も結構ミュリは気に入っているし。』
簡単に打ち合わせるとリオンが頷いた。
「じゃあ、ミュリと一緒に行こうかな。一度実家に寄っておじさんたちと合流してから行く?」
「ううん。それだと遠回りになっちゃうから現地集合の予定だよ。」
「そっか。因みに僕は自分の従魔を連れていく予定なんだけど大丈夫かな?」
「勿論!」
ミュリは俺やサニーのことをすごく可愛がっている。サニーは真心のこもったミュリの対応に好感を持っているらしい。俺もだが。
そして出発の日。動きやすい格好に剣を下げたミュリは旅行鞄を持って現れた。女の子らしさは全くない格好だが、それでもミュリの美しさは損なわれなかった。道行く人がミュリを見ている。そんな視線は慣れっこなのかミュリは全く気にしていなかった。リオンも旅行鞄を持っているが、多少のお金は手元に、それ以外の貴重品は俺が収納している。下手にリオンが持ってるより安全だからだ。
「おはよう!リオン。」
「おはよう、ミュリ。」
挨拶を交わすと2人で乗り合い馬車に乗り込んだ。俺はリオンの膝の上だ。
「サニーは?」
「僕たちが先行してサニーは後から来るよ。サニーは馬車の旅には向かないし、飛んでもらうと馬車より速い速度になっちゃうからね。」
「そっか。ラヴィは一緒だね。」
「ラヴィは鳥ほど速くないからね。」
乗合馬車はごとごと動く。リオンとミュリは楽しそうにお喋りに興じているので、俺はリオンの膝で二人の会話を聞きながらまったりした。一日に移動できる距離まで移動して、夕方宿に泊まる。朝になったらまた乗合馬車に乗る。その繰り返しでニャラカについた。ずっと馬車に揺られていたのでリオンはお尻が痛いそうだ。「お尻が二つに割れちゃったよ」なんて面白くもないことを言っていたので白い目で見た。(スライムの目は心の目で見てください。)ニャラカは暑いんだけど空気はカラッとしている。まずはミュリの両親と合流した。ミュリの両親はミュリの両親だけあってとても美しい。焦げ茶色の髪に瑠璃色の瞳をした渋い紳士とミュリと同じ豪奢な金髪の持ち主である淑女。顔立ちで言えばミュリは母似だろう。鼻筋は若干父に似てるが。二人とも品が良さそうなご夫婦だ。
「久しぶりだね、ミュリ、リオン君。」
「本当。二人とも久しぶりね。少し大きくなったんじゃない?子どもって半年でこんなに成長するのね。」
アートミルは半年ごとに長期休暇がある。ミュリが両親に会ったのは去年の冬だと思われる。
「パパもママも久しぶり。二人とも元気そうで安心した!」
「アーノルドさん、ライラさん、お久しぶりです。」
ミュリの父であるアーノルドさんは微笑んだ。
「リオン君、ミュリの我儘に困らされてないかね?」
「いえ。ミュリには良くしてもらってますよ。」
「そうかね?仲良くやれてるようなら良いが。」
アーノルドさんはニコニコしている。ミュリの母であるライラさんはリオンの頭の上に陣取る俺に目を向けた。
「まあ、スライム。可愛いわ!リオン君のティムモンスター?」
「そうです。ラヴィと言います。」
「そう。ラヴィ君。よろしくね。」
ライラさんに指でつつかれたので触手を伸ばしてつつき返してやった。
「賢いのね!すごいわ!」
ライラさんは興奮しきりである。
とりあえず俺らはミュリのご両親が予約してくれた宿屋に行くことになった。宿はエメラルドグリーンの海が見渡せる高台に建っていた。
「ここの宿は宿泊客が入れる大きなお風呂があるんだよ。夜にでも利用してみると良い。売店で石鹸も売ってるよ。」
アーノルドさんが説明してくれた。実際のところ石鹸は俺が収納してるので持ってきてる訳だが。
宿の個室で荷解きした。
『ミュリのご両親って何やってる人なんだ?』
『うちとは違った種類の商人だよ。分類としては一応美術品の売買だね。ただ広い長屋を所有していて、住人からの家賃だけで十分食べていけるんだよ。』
『長屋?』
『長屋としか言いようのない建物なんだけど、随分立派で綺麗なところだよ。僕が最後に見たのは一昨年だったけど、その時は満室だった。』
『もしかして結構金持ちか?』
『かなりね。僕の両親は随分僻んでいたよ。』
『へえ…』
部屋でまったりしているとサニーから連絡があった。
『もうすぐそっちに着ク。今夜あたリ宝石を排出しソウ。』
いい知らせではある。今度はどんな宝石を排出するのか楽しみだ。




