第14話
初夏である。日に日に気温は上がり、暑い日が続く。そろそろウェザーバードがキャラハの森に来てるんじゃないかと思う。テイマークラスでもキャラハの森にウェザーバードをティムしに行きたいという声が上がっているが、キャラハの森では森狼やら熊やら巨大な毒蛇やらがいるので二の足を踏んでいる模様。それでもお金を持ってる何人かは冒険者を護衛に雇って行くらしい。パブロは鷹を持っているのでウェザーバードには興味なさげだが。
学校が休みの日、キャラハの森行きを決定した。
『じゃあ、俺達もウェザーバードをティムしに行くか。』
『僕なんかが森に入って大丈夫かな?』
『きちんと守ってやるから心配するなよ。』
森狼に襲われた一件がまだ尾を引いているようだ。リオンは殊更びくびくしている。今回は護衛対象がいるので、噛まれても切られても平気、というわけにはいかない。リオンは人間なので噛まれたり切られたりしたら死ぬのだ。見敵必殺で行く。
まずは兎が現れたのでアクアカッターで首を刎ねて収納する。
『兎なんてどうするの?』
『リオンが食べる分だ。寮に帰ったら血抜きして解体すれば肉になるぞ?』
『ありがとう。お肉高いもんね。』
次に10匹の森狼が現れた。
「ヒッ!」
リオンが悲鳴を飲みこんだ。頓着せずに【酸弾】で4匹倒す。5匹狙ったのだが1匹外れたのだ。リオンに狙いを定めて襲いかかる森狼4匹をファイヤーボールを複数発動して焼く。その間2匹に齧られるが齧られた所から消化液を出してやったら飛びのいてキャインキャイン鳴いていた。スライムは食べられないってことを学んだかい?経験は活かすと良いよ、来世でね。ウィンドスラッシュで首を刎ねた。
『怖かった~…』
『数が多いのが厄介だよな。そう言えばリオンは狼ティムしたいか?』
ビスケット食べる?と同じくらい気軽に聞いてみた。
『うーん…前はティム出来たらいいなあと思ってたけど…今はいらないかな。ラヴィの方が強いし。』
『まあ、モフモフも1匹くらいいてもいいとは思うけどな。そのうちこれは!と思う個体に会うさ。そもそもティムできるからって際限なくティムしていくと餌代が尋常じゃなくなるしな。』
『そうなんだよね。ラヴィくらい食費がかからなかったら有り難いけど。』
『ところでこいつらからは魔石みたいなやつは取れないのか?』
『フォレストウルフは正確には魔物じゃなくて動物だから魔石は取れないよ。』
『ふうん。どの辺が境目なんだろうな?』
もぐもぐしてやった。
―――【連携】を覚えました―――
【連携】とな?どういう効果があるのだろう?ちょっと分かりにくいな。スキルは得ると「できること」が自然とわかるようになっている。【連携】は群れの思考を共有できる、的なイメージが伝わってくるが、具体的には分かりにくい。
【連携】について考えながら進んでいたが、巨大な蛇が出てきたのでウィンドスラッシュで首を刎ねた。この種は毒は持ってなかったはずだが、とにかく巻きつく力が強い。リオンに巻きつかれたりしたらリオンが死んでしまうからな。
『あー…』
『?どうかしたか?』
『この蛇、ブラックスネークだよね?皮が高く売れるんだ。』
『リオンは解体出来るのか?』
『一応できる。』
『じゃあ解体するか?』
『いいの?ラヴィの獲物なのに。』
『気にするな。俺にとっては無価値だ。』
リオンがナイフ片手に慎重に解体していった。途中で血の匂いに誘われた熊が来たが勿論【酸弾】で腹に大穴を開けてやった。
リオンが解体し終えたのでまたぶらぶらウサギを狩りつつ湖に向かった。途中で2匹の熊と1匹の毒蛇に襲われたが全部潰して湖に来た。湖の周りには無数のウェザーバードがおり、湖の中の魚を狙っていた。ウェザーバードは瑠璃色の鳥だった。大きさは鶏より少し小さい程度。尾が長い優美な鳥だ。
『うわあ、いっぱいいる。どうやって捕まえたらいいんだろう?』
俺は笑って言った。(スライムの笑顔ってどんなかな?)
『どれでも好きな個体を選べよ。捕まえてやるから。』
『本当?じゃあ…あれ!あの個体が良い。』
リオンが選んだのは一際美しい個体だ。身体は艶のある瑠璃色。尾は長く、瑠璃色から薄い水色へのグラデーションを描いている。鳴き声は繊細な楽器の如く響いている。俺はその個体にそっと【闇魔法】の誘導を掛けた。自分の意識は保ちつつもこっちに来たくて堪らない衝動を覚えているはずだ。枝からふわりと飛び立ち、しばらく上空を旋回していたが、そっとリオンの肩に止まった。
『リオン、ティムを試してみろよ。』
『うん。』
祝詞のような呪文を呟いてウェザーバードの額を指先でツンとつついた。ウェザーバードの額に赤い花のような模様が入る。
『ティム出来たみたい。』
『良かったな。』
お婆さんはウェザーバードは結構賢いと言っていたが、どの程度賢いのだろう?
『おい、俺の言ってることがわかるか?』
呼びかける。
『…わかりまス。』
若干ぎこちない感じはするが普通に返事された。
『お前はリオンにティムされたんだが、恨んでるか?』
『ティム…とハ、なんでスか?』
『従えられた、という意味だ。お前のボスは今からリオンだ。』
『了解しましタ。特に恨みハありまセン。』
『…ねえ、ラヴィ。【念話】って複数人数で共有してできるものなの?さっきから君たちの会話が聞こえるんだけど。』
リオンの声が割り込んできて吃驚した。そして納得もした。
『あー…【連携】っていうスキルのせいかもしれんな。群れの思考を共有できる効果があるらしい。』
『ラヴィがいくつスキルを持ってるのか…本当に底が知れないよ。』
リオンが呆れたように言う。そんな事言われてもさっき取ったばっかりの新しいスキルだもんよ。
『気にするな。ところでこのウェザーバードの名前は?』
『“サニー”にしようかな。どう?それとももっと女の子らしい名前が良い?』
このウェザーバードはメスだったのか…俺にはよくわからない。
女とはわからんもんだ。たとえ鳥でも。
そのうちサニーも「仕事と私どっちが大事なの!?」とか言っちゃうかも知れん。たとえ鳥でも。
そういう時は「お前のために仕事をしてるんだよ」とリオンに言わせよう。その言葉が一番効果的らしいからな。たとえ鳥でも。
『サニーで問題ありまセン。しかし私ハ、ウェザーバードではなク、ジュエルウェザーバードでス。』
ウェザーバードとは違う個体らしい。親戚ではあるようだが。リオンはジュエルウェザーバードを知ってるらしくすごくびっくりしているが、俺は知らない。有名なモンスターなのだろうか。
『ウェザーバードとどこが違うんだ?』
『ジュエルウェザーバードは、ウェザーバードより、知能が高いでス。体内に魔力を貯めこんデジュエルに変換し、定期的に宝石を排出しまス。』
『そりゃすごいな。』
サニーがペラペラ喋れてるのもジュエルウェザーバードだかららしい。しかも宝石を排出って。金の生る木じゃないか。
『サニーは普段何を食べてるの?どんな環境なら生きられる?』
『私は虫や魚や動物の生肉を食べまス。ディラが一番好きですガ。寒すぎたり熱すぎたりしなければ大丈夫でス。私を連れて帰るなら、住処に宿り木を用意してくれるト助かりまス。』
『宿り木ってどこに売ってるんだ?』
『従魔屋に売ってるんじゃないかな?』
冒険者から買った魔物を売ってる店か。とりあえずサニーにリオンの住処を案内しよう。サニーは人間の街に入るのは初めてらしく、少し緊張していた。
街まで戻ると従魔屋へ行った。
「すいません。」
「はいはい。お坊ちゃん。何をお求めで?」
にこやかなおっさん店員が応えた。
「鳥がとまれる宿り木っておいてありますか?」
「勿論ですとも。ウェザーバードをティムされたのですね。素晴らしい。いい宿り木がありますよ。」
リオンは数種類の宿り木を吟味して一本購入した。リオンの名前を入れて寮の獣舎に置く。獣舎は窓が大きくとってあり、雨や嵐の時でなければ大抵開いている。サニーも呼ばない限りは自由にさせておく。ここに籠ってリオンから餌を貰うのも、ディラを食べに森に飛んでいくのも自由だ。こういう半放置形態をとるテイマーもままいるらしい。ティムした動物が大きすぎたり野生で食事をとってもらわないと食費がかさみすぎる場合などは街の外で飼育している。利点は面倒をみることが楽な点、不利点はティムした動物が懐きにくい、有事の際にティムした動物が身の周りにいない点があげられる。テイマーとティムした動物は特殊な感覚で繋がっており、遠くにいても呼べば伝わるらしいが。【念話】も距離を関係無く話す事が出来るのでいつでもサニーとは話す事が出来る。とりあえず宝石を排出する時は知らせてくれと頼んでおいた。




