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第13話

ここのところ平和だ。パブロはリオンに絡みたくても俺を恐れて絡めず。威張りたくてもアーバンが使い物にならないので威張れず。噂ではもっと強い魔物を仕入れようと躍起になってるとか。ミュリは相変わらずリオンと仲が良く、リオンはかなり嫉妬されている。『ミュリはそのことに気付いてるのか?』とリオンに尋ねたところ、気付いているらしい。一時期は荒れに荒れて周りに『ふざけるな!』と当たり散らしたそうだけど周りの対応は変わらず。ミュリはリオンに言ったそうだ『私と縁を切って平穏に暮らしたい?それとも周りにちくちく言われながら一緒にいてくれる?私はリオンの意思を尊重する。もし近付くなというなら一生近付かないし声もかけない。』と。リオンは周りにどう扱われようとミュリと居ることを選んだ。ミュリは大喜びでリオンの傍にいる、というわけだ。リオンという少年は森狼に囲まれ泣きべそをかいてたことからわかるように決して強くない。特別頭がいい訳でも容姿に優れている訳でもない。苛められればくよくよするし、ちょっと殴れば吹っ飛ぶ。だけれど時に豪胆だ。そしてその豪胆さは俺の好むところでもある。

最近は文法も覚え黒板に書いてある文字も難しい単語でなければ読むことが出来るようになってきた。読書できる日も近いな。俺は胸ときめかせた。読書が出来るようになったら魔法についての本を読もうと心に決める。

と、まあ平穏な毎日だったが今日だけは違っていた。このところ12歳から15歳まで通える方の学校、アートミル学院高等部の騎士科の生徒が遠征に出ていた。同じ騎士科のミュリは言うに及ばず、リオンすら見送りに出たほどだ。盛大に見送られて出て行った騎士科の生徒たちが次々と学院に運び込まれている。大怪我を負って。どうやら学院に帰る途中でポイズンウルフという毒持ちの狼の群れに遭遇したらしい。爪や牙など狼としての物騒な装備を持ちつつ毒も持っているという凶悪仕様なようだ。まあ、まだ生きている所を見ると毒はそこまで強力なものではないらしい。爪や牙で身体を引き裂かれ、毒まで食らってる生徒が大量に学院に運び込まれたのだ。治癒魔法を使える教師はてんてこ舞い。治癒魔法を使える生徒まで狩りだされたが生徒の方の技術は未熟で、解毒など出来るはずもなく、精々延命くらいにしか効果がない。大慌てで近くの治療院に応援を頼んでいる。


「どうしよう。マリエル先輩が…エリザベート先輩も…」


ミュリは泣きそうになってる。


『ラヴィ、どうにかならないかな?』

『どうにかしていいなら、どうにかするが、目立つぞ?多分。』

『ミュリが尊敬している先輩たちなんだ。頼むよ。』

『わかった。』


ぽよよんと跳ねて素早く横たえられた先輩たちに近付く。なるべく重傷の奴から行こう。


「なんだ?このスライムは?邪魔だからどいてなさい。」


そういうわけにはいかないんだよな。

重症の先輩の毒をキュアポイズンで治し、ハイヒールを2回かけて傷を塞ぐ。おし、きれいに治ったな。次の患者だ。叱りつけようとしていた教師は呆気にとられている。

俺は次々と患者たちを治療し、教師や、近くの治療院の医師も駆け付け、なんとか負傷騒ぎは収まった。最後の一人の傷が治った時には歓声すら上がった。

後のポイズンウルフの対応なんてどうでもいいので、俺はそろーっと逃げ出した。このまま俺の存在には気付かないで頂きたい。


「待ちたまえ。君はリオンのスライムだな?リオン、リオン・クラヴァス!ついて来なさい。」


教師の一人に呼び出しを受けた。

リオンは覚悟していたらしく硬い顔で教師に従った。小教室に集まったのは校長先生と、テイマーの担任と、治癒魔法担当の先生と、生徒指導の先生だ。


「リオン。先程あのスライムは治癒魔法を使っていたようだが…?」


治癒魔法担当の先生が切りだす。


「はい。ラヴィが使えるスキルは【治癒魔法】【酸弾】【分裂】です。」

「スライムが治癒魔法!?馬鹿な…!」


テイマーの先生が声を荒げた。


「しかし、実際スライムが治癒魔法を使う所を目にしておりますぞ。」


生徒指導の先生が首を振る。


「リオン、このスライムはどこで手に入れたんだ?」


教師たちの視線がリオンに集まる。


「キャラハの森です。」


リオンが素直に答える。


「キャラハの森にはこんなスライムが生息しているのか!?」

「いや、先だってキャラハの森でティムしたスライムにはこんな能力はなかった!」

「この個体だけ特別だと言うのか!?」


喧々囂々である。


「リオン。このスライムの【酸弾】は相当強力だったはず。スライムにあるまじき素早さでもあるし。リオンはどうやってこのスライムを屈服させたんだ?」

「別に屈服させていません。僕に向こうから近付いてきてティムされたがったのです。」


これも嘘ではない。


『リオン。俺はリオン以外の奴にティムされるのはごめんだぞ?』

『わかった。』


教師たちがあんぐり口を開けている。ティムされたがる魔物などいないのだろう。


「随分と…人懐っこい個体なのだな…」

「リオンよ。このスライム、譲ってはくれぬか?」


やっぱりそう来たか。校長が身を乗り出して頼んでくる。小柄な老人の瞳が欲望でぎらぎら輝いている。


「それが、このスライムは僕以外にはティムされたがらないようなのです。」

「そんな馬鹿な話があるか!スライムごときが主を選びたがるなんて!」


なんと言われてもお断りだ。


「ティムしている今はリオンの命令には絶対服従なのだ。今のうちにリオンに命じさせて譲ってもらえば…」

「いや。その必要はないじゃろ。スライムはリオンの元で大人しくしておるし、このような個体がいるのなら他にもいるじゃろう?他の個体をとってくるんじゃ。」


校長が掌を返したように態度を変える。


「校長。しかし…」

「学院は子どもの成長を見守る機関じゃ。その学院が肝心の子どもたちから利益を得ようと搾取するのは好ましくない、と考えるのはいけない事かの?」


教師陣は黙った。


「リオン・クラヴァス。退席を許す。」

「はい。」


リオンと俺は教室を辞した。


「ラヴィなんかした?校長先生の態度が急に変わったけど。」

「さてな。」


実は【闇魔法】の洗脳を掛けた。俺の身柄を譲れだのなんだの言われるのは鬱陶しいからな。校長に絶対俺をリオンから引き離さないように他の教師を説得させるための洗脳を掛けた。他の教師は気付かなかったようだが。

この先もっと上、例えば貴族とかから「譲れ」って言われたらどうしようかねえ。本当に鬱陶しいよ。欲しい魔物なんて自力で森に狩りに行けっつーの。



この一件でリオンは一躍人気者になった。すごいスライムを所持して先輩の命の危機を救った英雄だ。


『なんだか、むず痒いよ。ラヴィのお手柄で、僕は何もしていないのに。』

『いいじゃないか。あの時リオンが頼まなければ俺は何もしなかったんだぞ?』


ミュリはリオンが評価されて大はしゃぎだ。「リオンとラヴィってすごいんだから!」とやるのが本当に微笑ましい。

当の命を助けられた先輩達もリオンの元へやってきて、リオンと俺にお礼を言っていた。ポイズンウルフの群れの方は正規の騎士団が退治したらしい。本当はちょっと食べてみたかったけど。


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