第12話
リオンの学校へ行き始めて2週間ほどたった。この2週間ずっと俺は闇魔法と治癒魔法について練習を行っていた。闇魔法では洗脳や誘導、記憶消去に隷属など犯罪に使えそうな魔法がたくさん使えるようになったと思う。少なくともキャラハ森で魔物相手に使った時は上手くいった。人間相手にはまだ使ったことがないけど。それにこちらの法律はよく知らないが、使ったら多分犯罪だと思われる。ばれはしないと思うが自重している。まあ、使うべき時が来たら迷わず使うと思うけど。治癒魔法では恐らくキュアポイズンが使えるようになったはず。実験したいのだが俺が使える毒液生成だとかなりの確率で即死させてしまうので実験できないでいる。便利なんだか、不便なんだか。今度弱い毒液を生成する練習をしようと思う。この2週間の間にリオンは1度だけ教師に呼び出された。「そのスライムが人間の言葉を理解してるというのは本当か?」という内容だった。どうやら一般のスライムはティムされても人の言語を理解することはなく、テイマーのイメージを伝えて指示を出すそうだ。テイマーにイメージ力が求められるとは…リオンは知っていたみたいだが、俺は吃驚した。先の問いには「多分…」とリオンは曖昧な返事をしていた。その場でミュリが行ったようなやり方で質問をされたが正直に反応するかどうかはすごく悩んだ。一応リオンの評価をあげてやりたいので素直に反応しようという結論に落ち着いた。教師は驚愕していた。スライムのサンプルをとる必要があるとか言ってテイマーがスライムをティムしに行くことになった。俺みたいなスライムは多くはないと思うがな。ともあれリオンが教師から一目置かれるようになったのは確かだ。そしてそれを面白く思わない人間もいる。
「今日はティムモンスター同士で模擬戦を行ってもらいます。」
教師の言葉にわあっと生徒たちが沸いた。場所はかなり広々とした屋外である。中央に石造りのステージがある。
『模擬戦って?』
『ティムモンスター同士を戦わせるんだよ。ティムモンスターに上手くイメージを伝える練習かな。一応殺さないように配慮を求められるけど、まあちょっとスリルのある見せ物だね。ラヴィはできそう?』
『戦えっていうなら戦うけどよ…俺の攻撃は【酸弾】ってことになってるんだぜ?相手の被害が半端ないと思うけどな。』
『【酸弾】って強いの?』
『少なくとも俺は食らいたくない。』
『一応治癒魔法の使える先生が付いてるから大丈夫だとは思うけど…』
リオンも自信なさそうだ。不安な俺たち。逆ににやにやしてるのはパブロだ。どうせしょうもないことを企んでいるのだろう。
「先生、俺のアーバンがリオンのスライムと戦いたがってるんだ。いいだろ?」
「いや、オーガとスライムでは…」
教師が渋る。どうやらパブロは模擬戦を使って俺を潰したがっているようだ。しかし人語を解するスライムという貴重なサンプルを惜しんで教師は反対している。
「リオンだって格上とやった方がいい練習になるはずだろ?それになまじ実力が拮抗してると手加減なんてできないし。な?」
教師は悩んでいるようだ。というか普通なら即断で却下だろう。却下出来ないところを見るとパブロに弱みでも握られているのか、鼻薬でも嗅がされているのか。
『どうする?ラヴィ。』
『別にやってもいいけどな。』
『パブロは君を殺すつもりだと思うよ?』
『大人しく殺されてやるつもりはないがな。1対1なら多分俺は負けない。』
『了解。』
苦悩しきった教師が決定権をリオンに委ねてきた。
「どうしますか?リオン。」
「やってもいいですよ。」
リオンが涼しい顔で答えたので、クラスがざわめいた。
「おい、リオン、やめといた方が良いんじゃねーの?」
親切に助言するのはアベル・モーリン。赤毛のもじゃもじゃ頭の少年だ。リオンと特別親しいわけではないが、誰にでも親切な気持ちの良い少年である。
「大丈夫だと思うよ、アベル。」
リオンがにこっと笑うとアベルが肩をすくめた。
「さっさとステージに上がれよ、無能なスライム。」
パブロが挑発してきた。俺はぴょんぴょん跳ねてステージに上がった。俺とオーガ(アーバン?)がステージに上がるとステージ上に薄い透明な膜が張られた。バリアとかそんな感じのものだと思われる。確かになんの仕切りもないと被害が生徒に行くかもしれないしな。睨みあう俺とアーバン。(スライムに目なんてないけど。)
「それでは、始め!」
教師の合図で戦闘が始まる。アーバンが素早く俺に近付き棍棒で一撃をかます。それはもう俺の命なんて一考だにしない威力での一撃だ。勿論そんなのを食らう俺ではないのだけれど。素早く腕から頭にかけ上って毛髪と頭皮を食い散らかしてやった。痛がって暴れるアーバン。俺を振り落とそうと滅茶苦茶に動いたり、引きはがそうと掻き毟ったり。核に触れられそうになったので頭から退避する。
「降参したら?」
リオンがパブロに告げる。パブロが真っ赤になって怒った。
「うるさい!アーバン、何をしている!?さっさと潰せ!!」
アーバンが俺を蹴ろうと足を振る。ひょいひょい避ける。【俊敏】を舐めるなよ?何度も足を振るアーバン。まるでアーバンが滑稽なダンスを踊っているかのようだ。生徒たちがくすくす笑う。パブロが口角から泡を飛ばしてアーバンを叱りつける。
「アーバン!そんな脳無しに手古摺るな!ただのスライムだぞ!?」
「パブロ、降参は?」
「しない!」
リオンが尋ねると食い気味に拒否された。やれやれ。無能な主人を持つティムモンスターなんて哀れなもんだな。びゅっびゅっとアーバンの両足に【酸弾】を打ち込む。足は無残に溶け、アーバンは歩くこともままならない状態になった。狂ったような悲鳴を上げてもがくだけだ。見ているこっちが不憫になる。しかし、とりあえず戦闘不能だろ。
「アーバンの戦闘不能により、勝者、ラヴィ!」
教師が高らかに告げる。治癒魔法が使えるという教師がアーバンの足を見ているが、果たしてどれだけ治せるものなのかな?少なくとも俺には完全再生はちょっと難しそうだ。【酸弾】は強力だからな。
「こんな、こんな馬鹿な…」
パブロが茫然としている。
しかしやはりアーバンの足は完全には治らなかった。俺の攻撃は危険なので今後の模擬戦は見学するように言われた。
そうしてくれた方が平和を保てると思う。他のクラスメイトからむやみやたらと恨みを買うのは俺もリオンも本意ではないので。




