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第11話

翌日、朝からリオンは料理に精を出していた。細切れの燻製肉と小さく刻んだ野菜を炒めて卵でくるんだオムレツや、野菜と肉の具だくさんスープなど。結構美味しそうだ。昼用にサンドイッチも作っていたし。


『ラヴィも食べる?』

『そうだな。味見だけしたい。量はいらないぞ?』


俺は少しだけオムレツとスープを分けてもらった。リオンは自分で言うだけあってなかなか料理上手だった。


『どうかな?』

『旨かったよ。』

『良かった。』


リオンは照れ臭そうに微笑んで自分も料理を食べ始めた。新婚さんみたいだって?止めろ!俺にベーコンレタスを適用するな!(いくらなんでもスライムなので無理です。)


『今日から授業か~…』

『気が重いか?』

『ちょっとね。多分ラヴィも馬鹿にされると思うけど、怒らないでね?』

『ああ。一々(消して回るのは面倒くさいから)怒らないよ。』


リオンの頭の上に乗って登校した。共通授業というのは中々興味深い。人類の歩んできた歴史とか、まるきりファンタジーだ。惜しむらくは教師が黒板(だと思われる)に書いた文字が、今はまだスラスラ読めない事だろうか。国語の授業とかは正直ありがたかった。算数の授業は簡単すぎてつまらなかったけど。

リオンはスライムを連れて歩いているので朝からヒソヒソくすくすやられている。学校でのリオンの立場はあまりよろしくないようだ。

昼食を挟んで午後からの個別授業ではテイマーが集まって授業を受ける。テイマー自体が明らかに冷遇されている上にその中でもリオンの立場は酷いもんだった。オーガを連れた太った男子生徒がリオンをせせら笑う。


「おいおい。いくらティムできる魔物がいないからってスライムをティムするとか。リオンは頭がどうかしてしまったらしいな。」

「……。」


リオンは絡まれても無視しているようだ。


『なあ、リオン。テイマーってティムする相手を屈服させられないとならないんじゃなかったか?あのデブ明らかにオーガより弱そうだけど。』

『あれはお金で買ったモンスターだね。冒険者が時々生きたままモンスターを捕えて従魔屋に売ってるんだ。テイマーはお金でモンスターを買ってティムする事もあるんだよ。』

『リオンはそうしなかったのか?』

『僕は5男だからね。親も5男ごときにお金をかけたくないのさ。モンスターって割と高いし。』

『ふうん。』


教室を見てみると自分より明らかに格上のモンスターを連れている生徒も何人かいた。あれがきっとお金で買ったモンスターというやつなのだろう。自分の従えられる動物なら何でもティムできるみたいで中には大型の犬を連れている生徒もいる。恐らく小さな頃から飼っている犬なのだろう。中々うまい手だと思う。


「まーリオン程度にはスライムがお似合いかもしれねーなあ。人間の中の最底辺だもんなあ。」

「……。」

『俺のことは仕方ないとして、リオンちょっと嫌われすぎじゃないか?』

『騎士科にミュリ・レオノーラっていう女の子がいるんだけど、可愛くて人気者でね。僕の幼馴染なんだ。』

『嫉妬か?』

『そんなとこ。』


まあ、確かに可愛い女の子の幼馴染がいる男とか前世の俺なら「爆発しろ」って言ってたな。スライムになって女の子への苦手意識だけ残って恋愛的興味は消えたけど。まあ俺も人間の美的感覚は持ってるし?むさくるしい男を見てるよりは見目麗しい女の子を見ていた方が目に楽しいのは確かだけど。


『特にあの太い子、パブロ・モントルって言う子はミュリの熱狂的支持者でね。僕のことが大嫌いなんだ。パブロは3男だけど親がお金持ちだからティムしている魔物も3匹もいるし。』

『3匹ってあのオーガとなんだ?』

『コルタイガーっていう虎みたいな魔物と鷹だよ。』

『へえ。』

『あのオーガはこのクラスのみんながティムしている魔物より強くって大威張りなんだ。』

『世の中もっと強い魔物は沢山いるだろうに。』

『世界が狭いんだよ。パブロの知ってる世界は家とこの学校だけ。そのちっちゃい世界でならパブロは王侯貴族なんだよ。』

『ふうん。』


テイマーの授業は結構面白かった。意外にも格闘の要素が多い。やはり第一に相手を屈服させなくてはならないからだろう。リオンの戦闘能力は5か、ゴミめ。……冗談だ。案外悪くないと言っておこう。キャラハの森では通用しそうにないけど。それからティムしたモンスターをどうすれば効率よく強く育てていけるかなんて授業もあった。教師も流石にスライムを強く育てる方法は知らないそうだが。

授業が終わると教室に一人の女の子が飛び込んできた。


「リオン!」


至極嬉しそうな顔をした女の子は容姿からして人並みでなかった。黄金を溶かしこんだかのような眩い金糸の髪、瑠璃を嵌めこんだかのような深いブルーの瞳。キラキラ輝く睫毛は長く、鼻は高く、ふっくらとした唇は薔薇色である。色白で華奢ではあるが、弱弱しい感じは微塵もなく、全身が弾けそうなほどエネルギッシュなイメージを起こさせる。


「やあ、ミュリ。」


この子がミュリか。確かに信者が付くのも頷ける。素晴らしい美貌の少女だ。特に今みたいに全開の笑顔だと殊更美しい。


「モンスターをティムしたんだって?見せて!」


リオンが俺を机の上に載せた。


「うわあ、スライム!可愛いなあ…」


少なくともミュリにとってはティムモンスターがスライムというのはマイナス点にならないらしい。新鮮な反応である。


「ねえねえ、触っても大丈夫?」


リオンが戸惑って俺を見たので答えてやった。


『俺は基本的に誰に触られても大丈夫だ。触られたくない場合はその都度言う。』

『わかった。』

「ミュリ、触って大丈夫だよ。」

「やった!」


ミュリが恐る恐る慎重な手つきで触れてくる。


「ぷるぷるだあ…可愛いなあ…いいなあ…」


うっとりしている。流石にちょっと照れるものがあるな。チッという舌打ちの音が聞こえた。パブロだ。ミュリにスルーされて苛立っているようだ。ケツの穴のちっちゃい男だ。便秘だな。(断定)


「何て名前なの?」

「『ラヴィ』だよ。」

「ラヴィ、ミュリだよ。よろしくね。」


ミュリが俺を撫でくり回す。


「随分大人しいんだね。こっちの言ってることわかるの?」

「わかるみたいだよ。」

「本当に?じゃあ、リオンがなんで今日こんなに身ぎれいになってるか知ってたら3回、知らなかったら1回跳ねてみて?」


仕方ないので俺は3回跳ねてやった。周りがざわざわざわめく。何故ざわめいてるのか分からないが。


「知ってるって。」


ミュリがリオンに言う。


「そりゃあね。昨日は一緒にいたんだから知ってるだろうね。」

「何でそんなにきれいな服着てるの?それになんだかいい匂いがするし。」

「ちょっとある人(?)に言われて改善してみたんだ。どうかな?」

「すごくいいよ。すごくいいけど…ラヴィ、その人って女の人?男の人だったら1回跳ねて、女の人だったら2回跳ねて?」


1回跳ねてやる。ミュリはほっとしたようだった。リオンが急に変わったから女が出来たんじゃないかと思ったんだな。なんだよ、リオン。お前幼馴染といい感じじゃないか。これは嫉妬されるのも分かるな。至極正当な嫉妬だ。爆発しろ。夜空のきたねえ花火になれ。

それからもミュリは他愛ない質問を俺に繰り返しては喜んでいた。楽しそうで何より。


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