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☆ fourteenthvisitor 気ままな退屈吟遊詩人(3)

異世界ダンジョン、書籍版 1巻発売記念の更新、続きです。

2巻は12月に発売予定です。

「かしこまりましたわ。パルマ。円盤を『じゃず』から『くらしっく』に変えてちょうだい」


「はい。お嬢様」


 ローザが手を叩くと、パルマと呼ばれた給仕が機敏に反応する。


 直方体の蓋を開け、円盤を交換した。


(では、お手並み拝見といこうか)


 エミールは瞳を閉じて、全ての神経を音に集中する。


 始まりは、木漏れ日のように柔らかな低音だった。


 繰り返されるそれは、揺り籠でまどろむ赤子のごとき不思議な居心地の良さを生み出す。


 フェアリーが森で戯れるように、自然に滑りこんできた高音は、自由で、軽やかな彩りを曲に加え、日が昇り、また沈むように、あるいは、生きとし生ける者が老いて朽ち果てるように、悠久の連環と栄枯盛衰を気取ることなく描ききってみせる。


(こんな音の進行があったとは。しかも、幾十の楽器を緻密に使い分け、寸分の狂いもない)


 それはまるで、高度な魔法詠唱のような、精緻で計算された至高の(わざ)


この曲を編み上げた者は紛れもなく天才だが、それを体現する演奏者たちもまた、賢者の域に達していた。異なる奏者が、まるで一つの楽器のように、自我を超越して一つになっている。


「このマジックアイテムを作ったのは誰だ!? さぞかし高名なエルフに違いない」


 一曲を鑑賞し終えたエミールは、感動のあまりテーブルを叩いて立ち上がる。


「魔王の用意した円盤ですからくわしいことは分からないのですけど。円盤を保管する箱に描かれた絵を見る限りでは全員ヒューマンですわね」


 ローザはそう言って、大きな木の葉くらいの大きさの四角形の箱を見せてくる。そこには確かにエミールの見たこともないような楽器を持って集うヒューマンが描かれていた。


(まさか、ヒューマンに敗北感を覚える日が来ようとは!)


「くくくくく、ははははは!」


 むずがゆいような感覚と共に、エミールは哄笑する。


「笑うようなところがございまして?」


「いや失敬。その音楽を笑ったのではない。私は自分の未熟さを笑ったのだ」


 エミールはそう断ってから、口を手で覆う。


 ヒューマンは弱く、知能はエルフに劣り、その生は陽炎のごとく短い。


 しかし、彼らは弱い故に集い、無知であるが故に工夫し、短命であるが故に後世に何かを残そうとする。


 永遠でないからこそ、強く永遠に憧れる。それが、彼らの文化の本質であり、長きを生きるエルフにない特徴だ。そんな人間に興味をもったからこそ、エミールは里を出たのだ。


(素晴らしい! これでこそ、ヒューマンの国々を渡り歩いた甲斐があるというものだ!)


 自分の求めたものはこれだ。


 エミールは確信する。


 里に帰ろうと思っていた矢先に、このような幸運に出会おうとは。


 風の精霊の導きに感謝せねばなるまい。


(必ずやその音、盗んでやるぞ。ヒューマン。お前たちが群れねば成し遂げられないことを、私は一人で成し遂げてみせる)


 エミールはエルフの矜持にかけて、そう決意する。


 こうしてはいられない。


 あのような高度な曲を演奏するには、笛だけでは物足りない。


 町に戻り、必要な楽器を確保しなければならぬ。


「あら、お帰りですの?」


「ああ。気に入った。素晴らしい店だ。またくる」


 エミールはそう言うと、代金を机に置いて、踵を返した。

クラシックtueeeee。

あとちょっとだけ続きます。実は次の話が本番だったり。

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