ライオネル⑥
デービッド・ブルーリーの顛末は彼の生まれ故郷に一本の電話によって伝えられた。
ブレンドは署の者に話し、ついでにライオネルにも教えてやった。
次の日にはネットやニュースによって、この残虐な事件の被害者は過去に起こった銃乱射事件に関係していたと、その日は賑わったがたった一日で飽きられた。
家庭内における暴力や銃乱射事件など珍しくもなんともないからだ。
ポートタウンの住人の多くは、大手のニュースチャンネルに自分たちの町がこのように話題にされることを恥じた。
二年も前のことに触れられたくなかった。
だから次の日、別の事件がトップニュースになっていてほっとしたものだった。
アメリカは今、また新たな戦争に向かって世論が真っ二つになっている最中だ。
銃乱射事件の犯人の肉親が数年後どうなろうと、それほどの関心を集めることはなかったのだ。
事件から四年後。
ライオネルは本を出した。
タイトルは、ポートタウンの悲劇。
デービッドの現在まで入れてやっと完了した。彼は意識のないまま今も病院にいる。
本は、そこそこ売れた。
出版社が思っていたほどの利益にはならなかったが、ライオネルにはそれなりの収入がもたらされた。
彼はブランベリの敷地内に慰霊碑を立てることを希望した。
教会の人間は誰も反対しなかった。町の住民も。
費用は全てライオネルが持つこととなった。
元々それを理由に、慰霊碑を建てるための資金に回すので話を聞かせてくださいとお願いされた住人も少なからずいたから、だいたいはスムーズに進んだ。
唯一揉めたのは、一部の住人が口にした、犠牲者の名前を入れるかという点。
事件の犠牲者のみにするか、その時の傷が原因で亡くなった人も入れるべきか。
引越し先で亡くなった人は?
ジョージ・ホワイトの妻と娘は?シンシア・ブルーリーはどうするデービッドは?
一緒の慰霊碑に納めるべきなのか?
慰霊碑にルーシーの名も入れるべきなのか?
ライオネルの知らないところで住民たちは議論に夢中になった。
ライオネルのお金でライオネルが依頼し立てようとしている慰霊碑に対して勝手にあれこれ感情をぶつけだし、挙句にそんなものを作る必要はないと言い出す者まで現れた。
だが計画はとっくに進んでいたし、敷地に穴まで掘っていたので何一つ中断することなく設置は終わった。
慰霊碑に犠牲者の名前は入れないことで決着した(ライオネルは初めから入れないつもりだったが)各々この事件に関して祈りを捧げたい相手に祈ればいいと。
ブランベリ教会の発表を受け住人たちは黙った。
全く持ってその通りだったからだ。
ブランベリ教会の敷地の奥、なつめの木々の間に慰霊碑は完成した。
シンプルな長方形の慰霊碑。
白と灰色の中間のような色合いの石はなめらかに加工され、全ての犠牲者に捧ぐと、その一文だけが刻まれていた。
町の住人は立派な慰霊碑を、その出来栄えを感嘆の面持ちで出迎えていた。
だが誰も知らない。
慰霊碑には別の言葉が刻まれていることを。
その石が完成し、教会に運び込まれた時。
皆が帰った夜、ライオネルはその石の前にいた。
正確には石の後ろ。
ライオネルは手にした彫刻刀で、お披露目を待つ慰霊碑に傷をつけた。
ジョージ・ホワイト、ルーシー・ブルーリーと。
それからその部分に樹脂を塗りたくり、名前をすっかり覆った。
その部分は丁度土の中になったため二度と暴かれることはない。
これが、ライオネル・バービーが気の毒な少女にしてやれたことの全てだった。




