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サリー

サリー・サージョンは怒っていた。怒りに満ちていた。

デービッドを打ちのめした後も怒りは治まらなかった。

近所の人がじろじろ見ていたから余計に気に食わなかった。


いや違う、あっちがこっちを気に入らなかったんだわ最初から!



思えば誰も協力的ではなかった。


サリーがいた〈ハッピーリング〉ではみんな祝福してくれたし、どんな罪を犯した人でも人はやり直せる新しい自分になれる、そういう心に問題を抱えている人を受け入れ手助けすることが相手も自分も豊かな心になる。

それこそが〈ハッピーリング〉のモットーであり、妻と娘を失い世間の晒し者にされひどい状態にいたデービッドと暮らすと言った時もみんな素晴らしいと言ってくれたのに。


引越し先はそうではなかったし、デービッドの心も変えられなかった。


彼のために養子までもらったのに!

もう子供を作れないデービッドのために!



罪を犯したことのない人間なんていないし、人は誰かの支えがなくちゃ生きていけない。たとえどんな過ちを犯そうと支援が必要な人がいたら見過ごせない。

生きることで出来る償いもある。


だから、誰でも生きていくためには人権を尊重し、保護される権利がある。


元犯罪加害者更正の会KKP、現ハッピーリングは素晴らしい団体だ。

名前も今のほうがずっと親しみやすいし好きだった。


デービッドだってきっと変われる。

そう思って一緒に暮らしてきたけれど。





エミリアの小さなお尻を鷲づかみにしているデービッドを見て全てが崩れた。

今日は暑かったし、朝プールを準備したのは自分だ。


デービッドは着替えさせているだけだと主張した。 

でも近くに水着はなかったし、彼はパンツしか身につけていなかった。

醜い両足をむきだしにしていた。


そしてなによりも。

サリーの目を奪い脳に一瞬でしっかりと刻まれたのは。


幼いエミリアのお尻を掴んでいる大人の手だ。

男の手。

指が食い込んで見えたし、もしかしたら傷をつけているかもしれない。もう片方の手はエミリアの小さな手首を拘束していた。

エミリアは顔を真っ赤にして、涙を流してはいたけど泣き声を上げていなかった。

騒いだらもっと怒られるかひどい目に合うというのをわかっているかのように。


私が仕事に出ている間、デービッドはなにをしていたのだろう。

サリーの身体を、怒りが電流のように走っていった。


「今日は、仕事が、その、工場が急に停電して仕事にならなくてだから帰ったんです。早い時間に」


違う、誤解だ、サリー。


サリーがちゃんと聞いたのはそれだけだった。


近くにハンガーがあった。木製の。


サリー・サージョンはそれでデービッドを叩いた。叩き続けた。

サリーが叩く前にデービッドがエミリアを離したから、彼女にハンガーが当たることはなかったがエミリアは転んでしまい多分どこかぶつけたが、それどころではなかった。

デービッドの相手が先だった。


ハンガーは振り落とされるたびに鈍く重い音を鳴らしていた。

サリーは決して細い方でもないからそれなりの力がかかっていた。


デービッドは手で防御していたが、サリーは的確に頭を狙い続け、それを避けるために大きく体をひねった結果。

デービッドは車椅子ごと横倒しになった。


あんたの魂を浄化してやるわ!


これが、デービッドがこの日はっきり聞いたサリーの叫びだった。


サリーはデービッドの唯一身につけていたパンツを下ろした。

這いずって逃げようとするデービッドの頭をさらに数回叩き、動かなくなったところでハンガーを突っ込んだ。

ぐいぐい押し込んだ。

それは、驚くほど入っていった。


それから背中や頭を、別のハンガーでまた叩いた。


その頃には近所の連中が外に集まっているのがわかったし(彼らは声のトーン下げないでお喋りするし、遠慮なく人のことを見てくる)誰が通報してくれたのかパトカーのやかましい音がしっかり聞こえていた。

でも、手を止められなかった。


結局こんなことになった全てがこの男のせいだと、自分の手が訴えているかのようにデービッドを叩くのをやめられなかった。


お向かいのババアがエミリアを撫でているのを見て、さらに怒りがこみ上げた。


「見せつけられているように、感じたんです。私に、母親らしいことをなにもしていないんだろうって、そう言っているようで」









もうすっかり夜だった。

今から来てくれる精神科医は捕まるだろうかと、パックはそればかりが気になって仕方なかった。

そしたらこの女はもう一度、この話を繰り返すのか。


うんざりだった。


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