ジェイコブ②
ナイフを腰に括りつけ、ゴミ袋片手にいつものようにジェイコブは海岸沿いを歩いた。
島の監視も目的のひとつだった。怪しまれずに島を探索するのが重要だ。
最近は海鳥の調査もしている。保護団体に協力する形で彼は個体数を確認している。
繁殖のために島に来る数が年々減っているのだ。
コロニーのはずれ、死骸がいくつもありジェイコブは悲しげに目を細めた。
白骨化しかけた海鳥の腹の辺りからゴミが溢れていた。
ビニールにルアー、ペットボトルのキャップ、アニメのキャラクターを模した小さなゴム製のオモチャ。
全てはプラスチックだ。
銃、車、そしてプラスチックは命を奪うのにもっとも適した発明品だ。
ジェイコブはそう信じて疑わない。
カラフルな異物が飛び出した死骸は増える一方だった。
鳥はエサと間違う。海に散らばった人間のゴミ、島に持ち込まれたゴミを。
食道に詰まらせて死ぬなんて思ってもみなかっただろう。
空の眼窩が苦痛に呻いている。
元々島にはゴミがしょっちゅう流れ着いていた。
海はただひとつでどこかにゴミが捨てられればどこかに打ち上げられる。
海底に引き込まれるのがすべてじゃない。
現にこうして。
鳥だけじゃないウミガメも腹にゴミを溜め込む。網に絡まりミイラになる。
そんな死骸だらけだった。
なぜ網が増えたのか。
それは単に魚を食わせなければならない人間が島に増えたからだ。
観光客。くそったれ。
ここまできてんだ、観光客共はわざわざ肉やファーストフードなんか食いたがらない。
やつらは島の特産品とやらが食いたいんだ。魚介に熱帯のフルーツなんかを。ウミガメの卵もだ。
昔ながらの漁業を捨てて、外の連中に教わった通りに網を使って根こそぎさらっていくようなやり方をする若者。
観光客相手の商売に切り替えたやつらもみな同罪だ。
そっちのほうが収入がよいのだから仕方ないが、ジェイコブにとっての最優先は島そのもの。
島の住人の生き方にいちいち口を挟む気はないが、後始末をしない人間は論外だ。
許せなかった。
欲しがる観光客が一番悪い、だがそれに手を貸す者の罪も重い。
ジェイコブは打ち捨てられた木の船をひとりで何隻も沈めた。小魚の棲み処になればいい。
使われていない生け簀を壊し、散らかったままの竿や網をまとめて火にくべた。たまたま海辺にやってきた持ち主と一緒に。
金は人を簡単に変える。
島に流れつくゴミに怒り生き物の死に嘆いていた漁師だった男は、観光客用のホテルの従業員になり海に寄らなくなってしまった。
ジェイコブはそんな島の住人も観光客もゴミを海に散らかすような外の人間もみな同じ、憎むべき人種で。
一体何人始末したのか、もうわからなくなってた。
ここで生きる気のないものには、立ち入らないで欲しかった。
島固有の深い密林、美しく白い砂浜、ぽっかりと口をあけた鍾乳洞の入り口、鮮やかな花や毒虫に珍しい動物たち。
降り立つ海鳥も行進するアリも跳ね回るトカゲにサル、飛沫をあげるクジラも。
皆ジェイコブにとっては家族だ。
生まれたときからそこにある、彼の家族。守るべき存在。
子供のときはわからなかった。
彼らが如何に脅かされて生きているかということに。
原因がすべて人間にあるということに。




