ライオネル①
ライオネル神父は追悼式が始まる前からずっとここにいた。引きこもっていたといってもいい。
今日は大勢がやってくる日だと言われていたので、人前に出るのが苦手なライオネルは地下の礼拝堂での祈りを買って出たのだ。
元々は引き取り手のない死者のための祈りの場だ。
ここに何人もの人が来ることは想定していないし、そういう造りでもない。
十人も入ればぎゅうぎゅうだ、今は自分を含めて十六人もいる。そのうち大人は二人。
空調も弱いためすぐに人の臭いが密集し始めている。
汗と、血。口臭。
まったくもってひどい臭いだ。
ライオネルは聞いていた。
足音、人々の嗚咽、静かな時間はジョーゼフ神父が祈りを捧げていたからだろう。
そして、銃声。
悲鳴、逃げ回る足音、ここへのドアが開く音、階段を必死に下る音。
残念ながら行き止まりだ、どうすればいい。
追悼式に銃撃してくる異常者に立ち向かう術はない。
ライオネルは入り口のそばに立ち、体でドアをふさぐようにしている。生徒たちは狭い部屋で身を寄せ合っていた。
教師はかたわらで不安げに耳を立てている。
誰かがパトカーの音が聞こえるわと言った。
瞬間。
ドアが激しく叩かれた。外から。
みな肩を激しく跳ねらせた。
ライオネルも飛び上がった。
「ここを開けて!お願い助けて!!わたしを入れて!!」
ライオネルはとっさにドアに手をかけた。
大変だ!逃げ遅れている子がいたのだ!
ドアを開けるとすぐに女の子が飛び込んできた。
髪は乱れていたし、その顔は血で汚れていた。
必死にここまで逃げてきたのかと、そう思い他の生徒たちに視線をやると。
みな息の仕方を忘れてしまったかのように顔をこわばらせていた。
ライオネルは彼女を見る。
その子はライオネルに向かってすばやく会釈をした。銃を手にしていた。そして。
ひとり、またひとり。銃弾を受けた体は倒れていった。
彼女はちゃんと目標を定め、撃っていた。
ライオネルは、動けなかった。
目の前で起こっていることが信じられなかった。
なにより自分が招きいれたのが犯人だということを理解したくなかった。
その子がしていることも。
長く感じた時間は、実際にはほんの数分だっただろう。
立ち尽くすライオネルは背後から強い衝撃を受け、床に叩きつけられた。
顔を上げると、犯人のその子が背中に銃弾を浴びていた。
彼女もまた、床に叩きつけられていた。
手が、体を起き上がらせようとしていたがその腕も撃たれた。
そしてまた背中を。
足を。
ライオネルはゆっくり振り返る。
男が、警察官だ、何事かを喚きながら彼女を撃っていた。何発も。
撃つたびに彼女の体は跳ね上がり床にぶつかっていた。が、その動きはだんだん小さいものになっていた。
反応しなくなっていた。
黒いブラウス姿でも背中が血まみれなのがはっきりわかったし、頭からも血が流れていた。その体はもう自分の意思で動いてはいなかった。ぴくりとも。
どう見ても、しんでいた。
だが警官は撃ち続けていた。涙を流しながら。
後から駆けつけた別の警官に止められるまで、その警官は犯人を撃っていた。
ライオネルはやっと、彼が口にしている単語が理解出来た。
マリーマリーああマリーなぜだマリー。マリーマリー!
彼の娘が、撃たれたのだろう。
今ここでしんだ少女の手によって。




