ルーシー⑮
ブランべリ教会の周囲は静寂に包まれていた。
入り口には警官が二人。
マスコミは追い払った後だろうか?それっぽい人は見当たらない。
入り口に近付くと、ラジオを大音量で流しているような、そんな音が聞こえてきた。パトカーの無線だろうか。機械を通した人の声が耳に響いた。
我慢出来ないくらいうるさい。
「なにか、あったんですか?」
「ああ近くで立てこもり事件があってね」
「そうなんですか」
「今説得している最中だ、大丈夫すぐに終わるよ」
真っ黒いひげを蓄えた中年の警官はそう言って笑った。もう一人の若い警官はなにも言わず教会のほうを見ていた。
荷物はチェックされなかった。
花を持っていたし、やっぱりそれっぽく見えるからかしら?
ルーシーは入り口の柵を通りすぎ、手入れされた庭と墓を横切り、敷地の奥にある礼拝堂へと進んでいった。
生徒はどのくらい参加しているんだろう。わたしのクラスの人は。
学年ごとじゃなくクラス単位の追悼式にすればよかったのに。
ドアの前、一度立ち止まる。
中で神父様がなにか話しているのが聞こえる。
ルーシーはそっとドアを開けた。
静かに中に入る。追悼文句を読み上げている年老いた神父と、それと何人かが振り返ってこっちを見た。
ドアのすぐ横には男の先生がいて、ルーシーを見ていた。
なにか言おうとしていたが、神父の咳払いとルーシーが花束を床に置く動作をしたため、結局黙って前を向いたようだ。
ルーシーはバッグも一緒に置き、中から銃を取り出した。そして、横にいた教師を撃った。
銃声。
と、なにかが床に倒れる音。
それはスタートの瞬間だった。
立ち上がった人目がけてルーシーは撃った。悲鳴はさらに大きくなる。何人かが礼拝堂の奥にあるドアへ向かっていった。
ルーシーが出入り口の前にいるため、他のドアはそこしかなかった。次々と人が殺到していく。
バーゲンみたいだとルーシーは思った。
その、礼拝堂奥のドアがどこにつながってるかは知らない。神父様用の出入り口だから。
ルーシーはそこよりも、イスの下や床に伏せている人を狙った。撃ちやすかったから。
ガラスを割り、窓から逃げる人もいたが、窓の位置が高く背の高い人しか乗り越えられないようだった。しかも窓枠に残っているガラスで体を切ったり、外へ落ちた人が苦痛のうめき声を上げている。
だからそっちは放っておいた。
わたしがなにかしなくても勝手に血を流しているみたいだし。
しばらくして弾が切れた。
ルーシーは銃の扱い方初心者ガイドのことを思い出し、バッグから予備の弾倉を取り出した。
「えっと、マガジンを入れたら、スライドを……あれ?」
柱の影でその様子を見ていたオーティスは、その女のあまりの手際の悪さに笑ってしまいそうだった。
素人だ。相手はどう見たって素人。
弾の交換にいつまでも銃をいじくっている素人じゃねぇか。何人かで飛びかかれば簡単だ、簡単に骨くらい折っちまいそうだ。
なにみんなギャーギャー言って逃げてるんだよ、こんな女一人くらい!
だからオーティスは手元ばかり見ているルーシーに壁づたいににじり寄り、もう少しで掴みかかるというその瞬間。
自分に向けられた視線と銃口を真正面から見てしまい、体が勝手に止まってしまった。
悲鳴が聞こえた。
ルーシーは驚いていた。顔を上げたらものすごい形相の男がいたから。びっくりして声が出てしまった。
なんだっけ、多分同じクラス。スポーツマンかしら?腕の筋肉がすごいし。どうでもいいけど。
それよりわたしが悲鳴をあげてどうするのよ、しっかりして。
顔を撃たれたのに、そのクラスメイトはまだピクピクと体を震わせていた。
スポーツマンてすごいのね。本当にすごい。
筋肉に意志があるみたいだとルーシーは思った。気持ち悪くもあったけど。
ルーシーは辺りを見回す。
何人かは倒れていて、何人かはイスや物陰に隠れようとしているがバレバレだった。先生たちはいない。窓から真っ先に逃げたのかしら。
ルーシーがイスの間を歩き出したその時、一人の子が叫びながら礼拝堂奥のドアに向かっていった。
今飛び出すなんて馬鹿なのかしら。自分の姿をアピールしているものじゃない。
ルーシーはその生徒の背中を撃った。女は倒れた。けど全然生きてる。
手足のばたつかせぷりったら元気そのものだわ。
他にも泣き声が聞こえてきたが、ルーシーはなぜかそっちに興味を持てなかった。
這いずってる女が気になったからだ。
女はドアの近くまで行けたが、それ以上自力で進めないことを悟ったのか、ルーシーの方に振り返りごめんさない助けてくれと言い出した。
ドリー・エリオだった。
不意にルーシーはひらめいた。
頭の中がパッと明るくなった。
先生は残してくれたんだわ、こいつを残していった。
わたしのためにこの子を残していったんだわ!
顔面に銃口をくっつけるとドリー・エリオは素手で銃口を握りやめさせようとした。
すごい、熱くないのかしらとルーシーは思った。
そのまま撃った。
それから礼拝堂の奥、開かれたドアに向かうことにした。
まるで自分のことを招いているように見えたから。
数歩進んだところでなにかを踏んづけた。指だった。多分ドリー・エリオの。
ルーシーは指を蹴飛ばした。
その、一部始終を年老いた神父は見ていたが、なにもできなかった。
足ががくがくと震え動くことができなかったからだ。
そのドアの向こうが外ではないと、逃げる生徒に伝えることすら出来なかった。
ドアの先は窓のない長い通路だった。
突き当たりにまたドアがあり、下に向かう階段があった。どうやら地下室につながっているようだ。
地下に悪魔でも崇拝する祭壇でも隠しているのかしら?
なんだか映画みたいだとルーシーは思った。
後ろの方から誰かが大声で騒ぐ声や、パトカーが鳴らす警告音が聞こえてきた。
ルーシーは急いで階段を駆け下りた。




