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ジェイコブ①

〈オレは観光客ってやつが大嫌いだ。勝手に人の家に入って来るのと同じだ。毎日毎日うんざりさせられる〉


〈俺もそうさジェイコブ。奴らは無知で面倒な連中だからな。いいことなんてひとつもない。はした金とゴミを落として帰るだけだ。黙って自分の国にいればいいものを。あいつらは害にしかならない〉


〈ああほんとに全くその通りだアーサー!お前にはいつも驚かされるぜ!オレの心でも読んでんのか?オレの分身がアフリカにいるんじゃないだろうな!お前が隣にいたら迷わず力一杯ハグしたい気分だ!アフリカに飛んでいけたらな!〉







送信してほんの少ししてからジェイコブは後悔し始めた。

なんだか気持ち悪いことを言っていないか?



思ったことがすぐ口に出てしまうのと一緒だ。ジェイコブはよく考えずにメールも送ってしまう。

もちろん打った文章を送る前に確認なんてしない。気付くのは打った後だ。



だからアーサーからの返信が、お前の力一杯は骨まで痛くなりそうだから手加減してくれと、そしていつか会えればそれはとても嬉しいことだと書かれていてジェイコブは心底ホッとした。

それから二、三回やり取りをしパソコンを閉じた。



アーサーから受け取った新しいパスワードを、さっそく右の太ももに書き込む。

原住民がボディペイントに使うわけのわからないものを混ぜ込んだ汁で(これの持続性はすごい。四年前のものがいまだ消えない)十三桁のなんの規則性もない数字とアルファベットを書く。


前にパスワードを間違って覚えてしまい、しばらくアーサーの元にいけず散々な思いをしたので、パスワードを覚えたらすぐに廃棄しろというアーサーの指示をジェイコブは破ってしまっている。



最初は左の上腕、次が腹。

最初でかい字で書き込んだためすぐに書くスペースがなくなった。

今度は小さい字で書いたのだが字が潰れて見えにくい。それから中くらいにして体のあちこちに書いた。


最初からちゃんと考えるべきだったとジェイコブは思った。だがなんとかなっているからそれでいいとも思う。


ジェイコブの体は傍から見るとタトゥーだらけに見えた。それがかっこいいなんて言う奴もいるからまんざらでもなかった。

全身暗号だらけ。かっこいい。アーサーとのやり取りの回数を示すいい目印にもなったしな。



こんな風になんでも話せる相手はアーサーだけだった。上辺だけの付き合いは長続きせずすぐ疎遠になる。

元々一人が好きだった。いや、はっきり言えばジェイコブは人より動物や自然が好きだった。

生まれ育ったこの地が大好きなのだ。

正直人間は嫌いだ。



立ち上がり伸びをしながら辺りを見る。誰もいない。

今陣取っているこの小さな海岸は、ジェイコブがたまたま見つけた場所で誰にも知られていない。


小さなカニが波打ち際でうろうろするその先、真っ青な海がジェイコブを迎える。

陽光を受けてきらきらと輝く様は笑みがこぼれてしまうほどだ。

跳ねた魚はまるで太陽から零れた破片のようにきらめいた。


ジェイコブは故郷であるこの島を何よりも誰よりも愛していた。

インド洋にぽつりと浮かぶこの島を、愛している。


島のためならなんでも出来るほどに。


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