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音哉①

彼は地下室にある自分の空間で一人寝そべっていた。

真っ黒に統一したベッドの上、仰向けで、なにも身につけず空想にふけっていた。


自分がどこか遠くの大地に裸のまま横になっている空想を。

アフリカだ、アフリカがいい。舞台はアフリカ。


きっと気温は高く、太陽が照り付けている。

まばらに生えた草を背中に感じていると、すぐに別の感触が体を襲うだろう。


アリか、なにか小さな昆虫が体を這う。

果たしてこの肉は生きているのか死んでいるのか食べれるのか。

虫たちは検分に来るだろう。そして探検しながら内側に侵入できそうな穴を見つける。

口、鼻、耳。

どこが一番柔らかく歯が通るかを見極めるためあちこち調べるはずだ。小さな口で噛み付くだろう。針でつつかれるような感じだろうか。

見つけた肉をまるごと引っ張ろうとするアリもいるかもしれない。なんだか応援したくなる。


そうしているうちに上空ではハゲワシが肉を見つけ集まってくるはずだ。ハエの方が一歩早いか。もうとっくに卵を産みつけられていそうだ。


ハゲワシの姿を見つけたハイエナもやってくるだろう。ハゲワシの下には死肉があると決まっている。そこを目指せばいい。

ハイエナは検分するだろうか?多少は臭いを嗅ぐだろう。後はさっさと胃を満たすべく噛みつくんだろうな。

きっと虫たちと同じ、柔らかい部分から。


腹かケツの肉を食い破りまずは内臓だ。太もも、頬、唇、性器なんかも歯がよく通る。

眼球だって簡単に弾けるだろう。それとも飲み込むのだろうか?

喉越しが気になるところだ。


ハイエナは顎の力が強い。だから彼らは骨まで食べることができる。肉などあっという間になくなり、むき出しの骨がハイエナの数だけ引っ張られ持ち去られるだろう。

頭蓋はもちろん噛み砕かれて……脳はすすられるんだろうか。



想像をする。寝ている自分の体から、肉や内臓、骨が。荒い息の涎を垂らした先にずらりと並んだ強靭な牙に抉れらるのを。

それを薄目で、一部始終を眺めている自分を想像する。


引きちぎられ反射で動く手足はきっと踊っているようだろう。


次第に空洞になっていく肉体。大地には人型の跡が残るんだろうか。いや、すぐに小さな昆虫たちによって片付けられてしまうはずだ。肉のかけら内臓のかけら血の一滴まで。

最後まで残った骨のかけらは風によってどこかに飛ばされ、そうして。


自分という人間がいた痕跡がそっくりそのまま大地に解ける。

ひとつになる。融合だ。究極の。

 




音哉は跳ね上がった。

この、自分が貪り食われる妄想をすると大体興奮状態に陥ってしまう。

歯を食いしばり自身を手で強く押さえつけ裸のまま外に出た。


夜空が出迎える。彼の命にあふれた庭も。カエルや虫の鳴き声は音哉の足音と気配に一瞬止まり、すぐに再開した。

エサでも交尾相手でも、捕食者でもないからなと音哉は思った。


無害だ、俺は。


音哉は地面に膝をつくとさっきから膨張しっぱなしの身体へ触れた。握り、擦り上げ、破裂を促す。その瞬間はすぐに訪れ、そして終わった。地面が汚れる。朝になっても残っているだろうか。

とても石や土に解けたなんて言える状態じゃない。


音哉は立ち上がり、膝についた土を落とし、そのまましばらく突っ立っていた。

自分はなにかに食われて死にたい願望でもあるんだろうな、しかもそれに興奮するなんておかしい。普通じゃない。


その願望が叶うことなどないと、音哉は十分理解していた。


自分にはやらなければならないことがあるからだ。


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