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ジェイコブ⑧

アーサーに最初に送った文章はあまりにも感情に任せて打ったために解読に苦労したのではないかと、ジェイコブはいつまでたってもメッセージを送るたびに気にして思い出す。


送った文章はずっと残っている。


ジェイコブは気恥ずかしくなるため読み返してはいなかったが、ふとなんとなく一番最初になんて書いたのかが気になって読んでみた。


確かあの時は、アーサーにメッセージを送っている途中で事故の話を聞いた。


ホテルマンのウィニスが村に来て話して回っていたのだ。

事故らしいと。派手な物音が森からした、なにかが谷に落ちたようだと。

ツアーの担当者がバスの運転手と連絡が取れないとホテルで話している、そうウィニスは言った。

彼は見に行きたそうにそわそわしていた。事件や事故を見るのが好きなのだ。

彼に言わせると、人の不幸がこの退屈な島で唯一面白くなる瞬間らしい。


ウィニスはジェイコブとは全く価値観の合わない人間であり、余りにもおしゃべりな彼は口が軽いと島の住人にはあまり好かれていなかったが、しばしば情報提供に一役買ってくれるためジェイコブは交流を続けていた。


ウィニスは今の時期が一番観光客が多いのに事故なんかとうるさく言っていた。が、ただの事故で予約がキャンセルになるわけがないかと自己解決した。

そして違うターゲットを見つけまた事故の話をしにいった。


こうして彼一人いればどんな小さな噂でもすぐに広まるのだ。

ジェイコブはウィニスのことを頭から追い出しパソコンへ向かった。

アーサーという人物に。





そして数日後、彼のサイトにジェイコブ・ブラックバーンの文字が足されたのだった。


「黒字は今、活動している者。灰色は行動を起こした者。クリック出来る名は自分の想いを皆に聞いてもらいたい者、押せないのはアーサーにだけ自分自身を打ち明けたい者……か」


きっとこれだけ見ればいかにもアーサーが死を強要しているかのように見えるだろう。

追い込んでいるように。しかも他人を巻き添えにして。


ジェイコブだって最初はそう思った。

自分はその誘導に乗るものかと意気込んでいたくらいだ。

だが実際は、アーサーは話を否定することなく真摯に受け止めていただけだった。

それがその考えが行動が、正しいんだと。


彼は野生動物の保護活動をしているといった。自分なりのやり方でやっていると。

君たちが想像している通りにと。



アーサーが一体どうやってこの輪を作り上げたのかは知らない。ただジェイコブは思うのだ。


彼には見分ける力があるんじゃないかと。

そういった素質をだ。


あるネズミの一種は普段は群れで暮らしているが、群れの数が増えすぎると自ら命を絶つそうだ。集団で崖から落ちるらしい。


それはきっと最初の一匹が行動を起こすんだろう。引き金となる因子を持つネズミが初めから決まっている。遺伝子にそう刻まれているのだ。

全てのネズミがそのような因子を持っている訳じゃないし、持っていても必ず発症する訳じゃない。

ただ、それは何らかの原因で表に出てくる。


ジェイコブには人間も同じじゃないかと思えるのだ。


大量殺人や結果としての集団自殺を犯す者は初めから決まっている。

その因子を持つ者にアーサーは接触出来ているのだ。少なくともアマンダやあの教祖はそうだった。


アーサーはそういう人間に敏感なのだろう。

それか、そういう人間が引き寄せられるのかもしれない。

そして、狩る側の人間も。ジェイコブのような人間。

だが、ジェイコブのしていることは守るための行動であり、自分がやらなければ破壊される一方なのだから仕方のないことなのだ。

島に比べれば人命など軽い。


ジェイコブは自分が殺人者だとはこれっぽっちも思っていない。


例えば毛虫や蜘蛛はわけもなく嫌われる。

ジェイコブにとってはその対象が人間というだけであり、アーサーも多分同じように思っているはずだ。同属であり理解者なのだ。


アーサーは言う。

自分が正しいと思って行動しているのなら、それは間違いじゃない。自分の正義を貫き通すべきだと。



アーサーは今、どうしているだろうか。


ジェイコブはここしばらくはメッセージを送ることを控えていた。

自分以外にもアーサーの元へ言葉を送っている人がたくさんいる。アフリカの地で一人闘う彼のことを考えると、あまり負担にはなりたくはなかった。


ジェイコブは暇があればアーサーのサイトに集まった名前を見ていた。追加される名前と黒から灰色になった名前を。


きっと自分はいつか捕まって牢獄で死を待つか、警官に撃ち殺されるかのどちらかだろう。捕まったらの話だが。

このまま何事もなく歳を取っていける気はしなかった。

本当は足腰立たなくなるまで島を守っていたい。それは叶うのだろうか。

ジェイコブにはわからなかった。


目立つようなことをせず、あくまでも事故を装ってうまくやり続ければ。

そんなことを思いながら、家路に足を向けたとき。


大きなつばのついた真っ赤な帽子が目の前に落ちてきた。こんな派手な帽子を被り海岸を散策するなんて観光客に決まっていた。


ジェイコブは帽子を手に取り、砂をほろってやりながら近付いてきた女を待った。


「ごめんなさい、ありがとう」


謝罪と感謝両方を口にした女は、ジェイコブを見て目を丸くした。


ジェイコブを初めて見る人間は皆同じ反応をする。

手足の肌を埋め尽くすように刻まれた英数字を目にして固まるのだ。それは足の甲から手の指にまである。大きさはバラバラで薄くなったものや最近書かれたようなくっきりとしたものまで様々だった。


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