ルーシー⑧
「一体何いったいなにがあったのこれはいったいどうしたのルーシー!」
勝手にバスルームに入ってくるなんて信じられない。
ルーシーが母に対して最初に思ったのはそれ、そして次が。
この顔を見た母になんと言おうかだった。
言葉に詰まった。
顔は痛い、顔以外も。そう訴えても母はなにかしてくれるだろうか。
今までなにもしてくれなかったのに。
わたしを寝かしつけるためにパパが部屋に入る、ということをいまだに純粋に信じているのかしら?自分の今の環境を守るために?
知的障害のある子供たちのサポートに全力を尽くしている素晴らしい教師という立ち位置でずっといたいために?
「具合が悪かったの。学校から帰ってきてから、ずっと寝てて、」
心の中では叫んでいる自分がいた。
「そしたら、ベッドから落ちちゃったの」
あんたの夫に。
デービッド・ブルーリーに。
わたしの父親に。
男に。
「顔からで、すごく痛かったわ」
暴力を受けたと。違う、ずっと受けていると。
「まあルーシー、どうして黙っていたのよ、傷は?あなた大丈夫なの?」
「だって、ベッドから落ちたなんて、恥ずかしくて」
全然大丈夫じゃないわママ、大丈夫じゃない。
「ひどい顔よ、肩にあざもあるじゃない。電話していいのよなにかあったときはママに、いつ連絡したって大丈夫なのよルーシー」
「だってママは、忙しいから、迷惑かけちゃうし」
「ルーシー……」
わたしは親に迷惑をかけない立派な我慢する子になったわ、ねえ、えらいでしょうママ。
「今週、学校を休んだらどう?まだ痛むでしょう?病院は?」
今週?
そうしたらパパといる時間が長くなる。この家で、一緒の時間が増える。
「あ、明日には行けるわ、わたし大丈夫よ一週間なんてそんな休みすぎだしそんなに休んだら勉強が遅れちゃうから……」
「だめよルーシーその状態じゃ勉強でころじゃないわ、あなた自分の顔をちゃんと見て、ひどいことになってるのよ」
知ってる。ママに言われなくたって顔を叩かれた以上にヒドイ目にあってるわ。
「せめて腫れが引かないと、」
「じゃあ腫れが治まったらいいのね」
沈黙。
ルーシー・ブルーリーとシンシア・ブルーリーは少しの間、見つめあった。
ルーシーは、明るいところで久々にじっくり見た母のことを老けたと思った。髪は乾燥しているように感じるし、目元に前まではなかったシミとシワがあった。
ショートカットにしたせいで女性らしさを少し失くしたように見えた。ルーシーは長い髪のほうが好きだった。
母を検分中、母は自分のことをどう見ているのかと、そんなことを思ったその時。
「腫れが引いたらね、ちゃんと良くなったらよ我慢したらだめよ」
ママが折れた。ルーシーはほんのちょっとだが気分が良くなった。自分の主張が通ったのが嬉しかった。
「なにか作ってるわね」
バスルームのドアが閉まる。母の後姿は消えた。
ルーシーは少ししてから泣いた。
助け出されない自分、なにも気付かない母を持った自分自身が気の毒で、泣いた。




