ルーシー⑦
ルーシーは裏切られていた。自分自身の体に。
ベッドの中にこのまま永遠に閉じこもっていようと決めたのに、お腹は空くしおしっこにも行きたい。頭も痛い。
ご飯を食べてないから、胃も気持ち悪い。
永遠に腫れたままなんじゃないかと思わせた頬も、赤みはそのままだがゆっくり元に戻りつつある。
しつこく痛みを訴えていた場所は、確実に平静さを取り戻していて、それにも裏切られた気分だった。
父親は仕事に行った。あれでも教師。とんだ演技力の俳優だわ。
母親は帰って来なかった。父親が電話しているのは聞いた。
お泊り会に参加していた子が急に体調不良になり、発作かなんかで。それで病院まで付き添ったとかなんとか。
父親が娘が体調不良でと話しているのも聞いた。きっと学校にだ。カウンセラーのクソババアの顔がチラつく。
全部聞こえていた。
うちの壁は薄い。
校長室に呼ばれた次の日に休んでしまったとルーシーは思った。
ジョージ先生に、なにか、その変な気まずい思いをさせなければいいけど。
ジョージの顔が浮かんだ途端、ルーシーは起き上がった。
急に自分が、自分の体が酷く臭うような気がしてたまらなくなった。
彼女は立ち上がり、廊下に落ちている服を拾って洗濯にかけ、それから歯ブラシを口にしたままバスルームに行った。
鏡に映る顔は疲れきってはいたが、自分の顔だった。ぶたれたとすぐわかる顔だったが、いつもの自分がいた。
ルーシーは湯船に浸かりながら、すぐ出てなにか食べようと思っていたけれど、お湯の温かさに負けてぼんやりし始めた。
気持ちよさに目を閉じる。
急に、前に見たホラー映画を思い出した。
大金持ちのおばあちゃんが、死後、の世界に一体なにがあるのかが気になりすぎて。
人を誘拐しては拷問し、死の淵を彷徨わせては見えたものを聞き出そうとする、とてもショッキングな映画。
本当にひどかった。だって捕まった女の人は椅子に縛り付けられて毎日殴られ、ご飯もトイレもそのままそこでして。
挙句に生きたまま全身の皮を剥がされてしまったから。
ルーシーはふと思った。
あの女の人よりはマシだわと。
あの人よりはマシ。
それから、夢を見た。
誰かに、追いかけられたり走って逃げたり足が思うように動かなかったり空を飛べたのに、捕まったり。
逃げ込んだエレベーターがどこにも止まらず上に行ったり下に行ったりして、出られないんだと、各階を示す数字がすごい速さで次々光るのを見て、立ちすくんでいたその瞬間。
シンシア・ブルーリーがエレベーターを開けた。
いや違う。
母はバスルームにいた。




