ジョージ⑨
きっと、多分、おそらく。
ジェニファーは知っている。マリオンにも話しただろう。だが。
その日の夜は全く話題にならなかった、ジョージとある生徒に起こったとんでもない言いがかりについては。なんの議論もされなかった。
自分から話すほどのことでもない、聞かれたら答えればいいそう思っていたが。
ジョージに触れられることなのいまま。
ジェニファーとマリオンはテレビに体を向け食事をしている。
ときおり笑い、出てくるテレビタレントのことをあの人はこの間離婚した、あっちは訴訟中、あの人はきっと整形だ、あの人は痩せすぎて骸骨みたい、久しぶりに彼を見た、まだテレビに出てるんだと。
自分の人生に一切関わりのない人間を見てはあれこれ議論している。
ジョージのことには触れない。
なにがあったか、どういう会話がなされたか、なにも。
興味がないのだ、彼女たちには。
妻と娘は父が職場でなにがあったかなど、テレビの中の人より興味がないのだ。
資料室をしばらく閉めるように(ハンナ・キーブリーの差し金で)言われたことなど、なんの問題でもないのだ。
職場で自分だけの空間を失うことがどれほど息苦しいことか。
ジョージについての話題が出ることなく、夕食は終了した。
マリオンは後片付けに取りかかり、ジェニファーはコミックと携帯端末を手にしてテレビの前へ。
ジョージの存在はホワイト家から閉め出されていた。
次の日、ルーシー・ブルーリーは学校に来なかった。
体調不良。
優等生がこんな噂を流されたらショックを受けても仕方ないと、ハンナはそう言った。
ハンナの見解。休むのも当然。少し休ませたらいい。
空っぽのルーシーの席をちらりと見てから、ジョージは授業を始めた。
何人かは下を向き、何人かは教室にすらいない。
いつもどおりだ、誰も自分の話など聞いていない。今日は近代における人種差別の話だ、自分たちには関係のないことだと思っているだろう。つまらない、ありきたりの、毎回同じ話。
同じことを繰り返しているのは我々だというのに。
授業開始からしばらくして。
ジョージは違和感を感じていた。
視線。生徒たちから。いつもこっちを見ることなどないくせに、数人の生徒がじっとこっちを見ている。
そして周りとなにやらこそこそ話し、また、見る。
ジョージは咳払いをした。
小さな、だが確かに笑い声が聞こえた。
生徒たちに背を向け、話を続けた。差別と戦ったとある牧師の話を。
自分の背中に視線が突き刺さっているのがわかる。ドリー・エリオのあたりを中心に。
あの子はきっと叱られただろう。
だが堂々とここにいて、ジョージを睨んでいる。ルーシーは休んでしまったのに。
くだらない、どうせすぐに飽きる。
視線は授業が終わるまでずっと続いた。
ルーシー・ブルーリーは次の日も来なかった。




