ルーシー⑤
家についたルーシーを出迎えたのは父親だった。
ドアを開けた瞬間目の前に立っていてルーシーは驚き立ちすくんでしまったが、腕を引っ張られ家の中に引きずり込まれてしまった。
父親はなにかを喚くように大声を出しながらルーシーの体を揺さぶった。肩を掴み思い切り揺さぶる。ルーシーがなにか言おうとも聞いてはくれない。
もうパパに報告したのね信じられないこんな、本当にどうでもいいような問題にもならないバカバカしいことをどうしてわざわざ親に言うの!?
父はなにかを言っている。
揺すられたせいでドアに頭をぶつけたルーシーの耳に響いたのは、
「さいきん!おそいのは!あいつか!げんいんは!!あのおとこといて!!おそいのか!!!おまえが!かえってこないのは!!おまえもか!!おまえも!」
という言葉だった。
やめて、パパ、違う、痛い、ちがう!
ルーシーの声は言葉にならなかった。
父親の形相、目の玉がこぼれそうなほど見開き泡を飛ばしながら体を揺さぶってくるものだから、ルーシーの声帯は恐怖で縮こまっていた。
なぜ否定しないのかと言われ、ルーシーは思わず笑ってしまった。
だってわたしの話を聞く気すらないじゃない。
この状態でどうやって話せばいいの。
ルーシーは涙を流していたが、デービッドには全てが肯定されたとしか思えなかった。
再教育の必要があった。
自分の物が言いつけを守らず外で勝手な振る舞いをするなど許せなかった。
子は親の物だ。誰がなんと言おうと所有物に決まっている。
自分のものだから側に置いて大事に育て可愛がり習い事をさせ、躾けた。
親に逆らうなんてとんでもない、今まで育ててきた恩をなんだと思っている、当たり前の権利だと思っているのか学校に行かせたり病院に行かせたりが与えられた権利だと思っているのだろうか。笑わせるな。これだから女は。
「養っているのは自分のものだからだルーシーもちろん大事だし大切にする気持ちでいる。パパはお前のことが嫌いなわけじゃない、むしろ。だがそれはお前が黙って言うことを聞いている場合だ好き勝手する者にどうやって寛容になれというんだ」
ルーシーは家の中を引きずられるようにしながら、カバンや靴、新しい黒いカーディガンやブラウスが床に散らばっていくのを見ながら。
父親のキスを受け入れた。そして我慢できなかった。いつもみたいに隠せなかった。
本当に胃液がこみ上げてきて、オエッと言ってしまった。
頬に衝撃が走った。
それを追うように顔中があちこち刺されたように痛み出した。
平手打ちの効果は絶大だった。
そして。
それから。
顔より、足の間、両足の、体の奥のほうが痛み出した。
開かされ、押し入っては出て行きまた潜り込む痛みに涙が止まらなかった。
「ママは来ないぞ。例の子供たちのところで仲良くお泊り会だと。バカ相手に馬鹿馬鹿しいな」
痛みはまだまだ長く続く、そう宣言されルーシーは気を失うことをしない自分自身を憎んだ。嫌になった。
誰かに言うことが出来たら、こんな汚らしいことを誰かに言えたらわたしはとっくにここにいなかったのかしら?引っ越せた?
でも一体どうやって誰がなんとかしてくれるの。
資料室はだたの逃げ場だった。
一時的な、本当に短い期間。
ジョージ先生になにか、少しでも訴えることが出来たら、今頃こんな目に合わなかったのだろうか。
話すチャンスはあったのに言えなかった。
ルーシーは言えない。
ブルーリー家で起こっていることを打ち明けたあと、自分がどんな目で見られるかが怖かった。
これじゃああの人たちと変わらない。
すぐ付き合ったり別れたり、友達の前の彼氏と付き合いだしたりとか先生にべたべたくっついたりとか。見せびらかすように廊下でキスしたりとか。
濃い化粧、体を強調するような服、クラスのあの、勉強のできないでも本能のままにサルみたいに下品に生きている人たちとなにも、わたしは違うのに!




