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ペギー②

センターの近くを傷だらけのヒョウがうろついているという話がアーサーの耳に入ったのは、彼がベッドの上に収容されて二日後のことだった。


傷口が熱を持ち意識が朦朧としていたアーサーのいる部屋で、スタッフが話していたのだ。

喉が腫れたために言葉を発せないアーサーは、近くにいたペギーの服を握り締め必死に口を動かして訴えた。


俺が育てた、俺の子だ、ハニーを助けてくれと。


アーサーの隣にベッドが用意されそこを慌ただしくスタッフが行き来し始め、ペギーが強い口調でスタッフに指示するのが聞こえたのはそれからすぐのことだった。

捕獲の準備が整ったというペギーの声を聞いてから三時間。


アーサーがペギーの腕時計ばかり睨むものだから(彼のは壊れてしまっていた)外して与えようかと思っていたその時。

ペギーとアーサーの視界にバタバタと音を立てながら駆けつけるスタッフ数人、その腕の中にはぐったりとしたヒョウが、ハニーがいた。


麻酔が効いているため目も口も開きっぱなしでぴくりとも動かないハニーをアーサーはずっと眺めていた。

傷口に消毒用のスプレーを噴射され、尾を包帯で巻かれ、耳や口の中まで調べられてもハニーは死体のように黙っていた。

麻酔が効いているのだから当たり前なのだが、アーサーは自分の無力さばかりを感じていた。


ハニー、そして失ったハート。


ハートはどこに運ばれたのだろうか、奪い返すことはできるのだろうか。


そんなに怖い顔をしなくてもハニーの治療は無事終わったとペギーが微笑んだ。

体の汚れを落としてもらい小奇麗になったハニーの目覚めをアーサーは待った。


やがて麻酔が切れた彼女が飛び起き、アーサーが寝ている小さな部屋を物を落下させながら興奮したように歩き回わるのを見て心の底から安堵した。

元気なことが嬉しかった。

ハニーは唸りながらドアをガリガリ引っかいた後に、見た目の変わったアーサーに気付き急に大人しくなった。

そしてベッドの下に寝そべり動こうとしなくなった。


まるで忠実な番犬、もしくは傷ついたあなたを見て落ち込む恋人と言ったところね。


そんなペギーの言葉をアーサーは忘れられなかった。

その後はアーサーの手からでないとエサを食べず、部屋に入る者を毎回威嚇するのだからハニーという名がぴったりだとスタッフ皆がそう思ったものだった。


保護センターを出るときですら寄り添っていたのだから、アーサーがペギーに会いに来るたびハニーのことをあれこれ聞かれるようになってしまった。

それは単純に顔を半分失ったアーサーと人間から離れないハニーを心配する部分もあるのだが。


ペギーは痛み止めを渡すから定期的にここへ来なさいとアーサーに言い、アーサーもそれに従っている。

傷は良くなっても疼くのだ。特に雨季になるとじくじくと。

ヒルかナメクジでも這っているかのように鈍く不愉快な感覚に見舞われる。



「それで、あなたのハニーにパートナーは出来たのかしら」


「いいや、そういう兆しはないな」


「そう、もうとっくに盛りを過ぎているのに」


「人間くさいヒョウに寄り付く相手がいないのかもな」


「あら、人が育てた動物がちゃんと繁殖し親になるのをあなたが一番知っているでしょう」


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