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ジョージ①

授業を受けている半数以上が、自分の話なんてちっとも聞いていないとわかっていても、ジョージは決して手を抜く真似はしなかった。

ジョージは歴史を教えているが、昼食後に戦争の話など生徒たちは退屈で仕方ない、といったつまらなそうな顔をしている。


早くこの時間が終わらないものかと欠伸をする無知な生徒に向かい、淡々と説いてやる。歴史を学ぶことでいかに自分たち人間という生き物が、いかに、愚かで残虐で同じ過ちばかりを繰り返す下等生物だということを。


血みどろの歴史、侵略と破壊ばかりの地理、きれいごとばかりの人間至上主義を植え付けている倫理。


我々は存在自体が罪だ。

地球の癌。

一匹増えるだけで負担がかかる。 


今ここに、このクラスにいる三十五人は社会にどう悪影響を与えながら大人になるのだろうか。


大人が話す、つまらない話を聞く忍耐力すらない子供たちは。

このなにもない町を出て行く知識を得ることも出来ない子供たち。


きっと大半が町に残り、だれでも出来るような仕事について、退屈を紛らわすかのように酒やギャンブルにおぼれ日々を過ごすだろう。なんの責任もなく父親や母親になる子だっているだろう。犯罪者になる可能性もある。


糞みたいな人生だなとジョージは思った。

靴底のような人生だ。


生きているだけで社会にマイナスになるのならば、死んだほうがよっぽど役に立つ。

生かすエネルギーの方が無駄だ。



真面目にノートを取っているのは五人。皆、進学を望む子だ。ジョージの話の本質はおそらくわかってはいない。

点数と評価のため授業に集中しているだけでジョージの話などテストが終わればきれいさっぱり忘れるだろう。


最初から塗りつぶされる用の記憶だ。


「では、次の授業までに各自レポートを提出するように。テーマはさっきも言ったとおり、現代の戦争と終結においてアメリカの介入は正しかったのかどうかだ。正直に自分の考えを書くように」


ジョージはわかっていた。三十人がなんの疑いもなく正しいと書く。残る五人は、戦争が引き起こす悲惨な現実を問題点として上げながらも結局は正しいと書くだろう。


なんの疑問も抱かずただ時間ごとに与えられたなにかをこなすだけだ。死んだところで世の中は何も変わらない。それはジョージ自身も同じだ。

だが彼にはこの考えを受け入れてくれる仲間がいて。その仲間は一人戦っている。


自分も行動を起こさなければ、そう決意するまで時間はかからなかった。決意してから行動にはまだ至ってないのだが。

減らさなければと、漠然と考え出したのはいつからだったか。

この世界を(地球を救う、なんて言ったらなんだか大げさな気もする)今より少しでもよくするにはどうしたってそういう結論に至った。


人間を減らす。

誰がどう考えても……口に出さないだけで地球全ての問題はそもそも人間の増えすぎによるものじゃないのか?人間は増えすぎだ。このままじゃ駄目なのはわかっている。皆、知らないふりをしているだけだ。関係ないふりを。誰かが行動しなければなにも変わらないのではないか?


教師になって三十五年、過去をいくら学んでも得られる答えは一緒だった。 


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