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アーサー④

アーサーが眠気を感じ始めたのは、結局夜明けになってからだった。

ヒョウのように木の上で眠れたらと思いつつ(以前真似をしたら落ちたことがある)アーサーは下に降りた。木の幹に寄りかかり少し休息を取ろう。


ハニーも降りてきた。彼女はすっかり目を覚ましたようだ。

自分の近くに寝そべり、毛づくろいを始めたハニーを眺めてから目を閉じる。




アーサー・グレイフィールドがヒョウの兄妹に出会ったのもこんな大きな木の上だった。

アーサーは国立公園や保護区を移動しながら、もう三十年近くレンジャーをしている。パトロールとワナの回収を平行しつつ、親を失くした動物を野性に返すプロジェクトにいくつも関わってきた。


ハニーとハートが木の上でもう何日も母親を待っていた頃。

アーサーは夜間に密猟を繰り返しているグループを襲撃するために他のレンジャーと見張りをしていた。


正直、チャンスがあれば始末するつもりでいた。

こういう奴らは生かしてはおけない。何度摘発されようとなにもかわらない。同じことを平然と繰り返すだけだ。

罰金や禁固刑などなんの解決にも抑制にもならない。現に今回のターゲットである四人のハンターは皆見た顔だ。


自分が行動を起こすことで、この先が変わる。救われる命がある。

それがアーサーを突き動かす信念だった。


彼らのルートを辿りながら、待ち伏せに最適なポイントを見つけ確保しなければならない。

銃撃になり正当防衛のために撃った、そんなありきたりなシナリオを思い描いていたその時。

小さな泣き声。それは何キロも離れているようだったが、すぐにまた。今度は近くから聞こえた。疲れた猫のようなか弱い声。


三度目でその声が頭上からであることに気づく。

近くにそびえる木の枝をなぞるように目で追った。枝に隠れるようになにか固まりがある。


それが自分を高い位置からからかうサルの姿ではないことにアーサーはすぐに気付いた。


木に登りその固まりに近付く。威嚇する声、木の枝がしなる音。

突然枝がポキリと折れ、子犬ほどの固まりが落下していった。アーサーは慌てて降りた。

きっと枝の端に行き過ぎたんだろう、うずくまる影に手を出すと爪が飛んできた。まだ元気だ、いつから木の上にいたのかはわからないが助かる可能性は十分にある。


こうして、毛並みはバサバサ目だけやたらギョロギョロした痩せたヒョウの子が二頭。アーサーの元に舞い込んできて。

そして一頭を失ったのはちょうど五年前。



ハート。額にハート型に見える紋様があるためそう呼んだ。オスだが気が弱く大人しくていつもハニーの一歩後ろを歩いていた。

ハニーはハートの妹か姉なのに、まるで母親のようにハートの世話を焼き気にかけていた。

慎重で周囲を警戒しているかと思えば、いきなり飛び出してハートを驚かしてみせたりした。母より恋人だ。

しっかりしているようで無邪気な恋人。

ハニーという名がぴったりだと思ってそう呼んだ。

どっちの名を呼んでも二頭とも反応していた。


まだ子供だった、二頭とも。

子供ながら母親がもう戻ってこないこと、アーサーに敵意がないこと、アーサーが自分たちに食料を持ってくること、付き添っていること危険から身を守ってくれることをすぐに理解した。

親のような存在であると。


子にとって親は一番強い存在だ。

だからアーサーの身に危険が及ぶなど全く思っていなかった。

アーサー自身でさえも。


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