ルーシー②
遅くなってしまった。
ルーシーは初めて、そう初めて急いで家に向かっていた。
門限が過ぎている、もう一時間も。こんなに遅く帰ったことはなかった、だって言いつけを破るとなにを……。
なにをされるのか、そう考えてルーシーは急ぐのを止めた。
だって、とっくになにかされてるし、今以上に最悪なことなんてない。
きっと多分、もし妊娠したら今より最悪だししにたくなるんだろうけど。
ルーシーはやがて歩くスピードを落とした。
家の前まで行くと、待ち構えていると思っていた父の姿はなく、代わりに母の車があった。
「あらおかえり、遅かったわね」
「ママ」
こんな時間にいるなんて珍しいと思っていたら、早い時間にいて変かしらと先に言われてしまった。
「今月、あなたの進路について面談があるでしょう?ちょっと話を聞いておこうと思って」
「面談まではまだまだだわ」
「今日しか時間が空かないのよ、ママが忙しいのは、」
「わかってる、わかってるわ」
「ルーシー」
父親が入り込んできた。
話に加わり、娘が進学のため寮に行く話をやっぱりなかったことにするんじゃないかと。近くの大学にでもしろと。
ルーシーが一瞬でそんなことを考え無意識に体を強張らせていると。
「もう七時を過ぎている。門限のことは忘れたのか」
「ちがうの、あ、あのね、」
「残って勉強でもしていたの?」
「うん、その、社会の先生が論文を見てくれるって。これもその先生から借りてきたの。文章の構成がすごく参考になって、それで、夢中になってたら時間が」
嘘はついていなかった。手にしている論文にもジョージのサインがしっかりとある。
母シンシアはその論文をざっと眺め、面白い解釈なのねと言い、それから父デービッドが受け取りしばらく見ていた。
彼は無言で論文をルーシーに返した。
取り上げられなかったから、信用してもらえたようだった。
「遅くなりそうならバスを使ったら?お金は渡してあるわよね?」
「わかった、ごめんなさい」
「じゃ、そろそろあなたの進路の話をしましょう」
家に真っ直ぐ帰って来させるためだろう。余計な寄り道をさせないために。
寄り道はろくなことにしかならないと言うのがパパの教え。
父にお金を取られていることを、ルーシーは母親に言えなかった