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ジョージ⑤


「戦争行為は好きじゃないけど、かといってあっちの国、中東とかアフリカの人々のことを特別助けたいとか可哀想とかそういう気持ちもないんです」


ジョージが学生時代に提出したレポート(ルーシーが読みたいといった。絶えず入り込む企業広告への対処法とかだった気がする)をめくりながらルーシーはつぶやいた。


「全員が全員そうじゃないとは思うんですけど、発展している国もあるし多分中には変えようとがんばって活動している人だっているかもしれないけど、でも、わたしが小さいときからあの周辺ってなにも変わってないし、あの宗教の……女性に対する行動とか執着心が」


「うん」


「気持ち悪いくらい異常」


「確かに、今の社会からすれば理解不能なことが多いね。特に女性の目から見ると一段とそう感じるだろう」


「わたし、実際にあった事件とかドキュメンタリーなんかが好きで。なんていうか実際こういうことが起こった今もどこかで起こっている、そう思うとなんだかハッとするというか。単純にノンフィクションものが好きなだけなんですけど」


「わたしもだよルーシー。誰かの妄想話よりも現実にあるものほど興味を惹きつけられるからね」


「時々、本になったりするじゃないですか。親が勝手に決めた婚約から逃げたら火をつけられたとか、暴行の被害者なのに女の方が悪者にされた挙句加害者の嫁に出されたり。布で隠れている部分は虐待跡だらけとか、同じ罪を犯しても女の方が重罪か死刑になるとか」


「ああ、最近もそういったニュースを見た気がするな」


「何年、何世紀経っても変わらないですよね?いつまでも身勝手な男社会。女子供を物扱いしているように感じます。いまだに誰がどう見ても、まだ子供なのに妻にしている気持ちの悪い男社会も健在でしょう?産んで育てた側や、子供の代の社会を良くしようとか、そういう気が全くなくて。もうその考えが染み付いて治らないのならいっそのこと全部」


「浄化してしまおうというのが昔からの戦争の言い分だった。ローマ時代からね。つまり当時から現代にかけて、理由はどうであれあちらの方はいまだに同じように思われているということになる。まあ当時は宗教も戦争の理由のひとつだったが、信仰とかけ離れた行為も多数行われていたようだったがね」


「例えば……」


「肉体的征服だ。一言で言うなればね」


「そう、ですね。それですよね男の目的なんて」



ルーシーは返事をしたきり黙ってしまった。まるでくっついてしまったみたいに、両の手をぎゅっと握り締めている。

さっきまでの饒舌な彼女は見当たらない。


「ルーシー……?」


部屋が寒いのだろうか。資料室の空調はあまりよくない。

なんだか小さくなってしまったルーシーを見ていると、彼女は顔を上げた。


「ごめんなさい先生、わたしそろそろ帰らないと、」


「あ、ああ、すっかり遅くなってしまったな」


外は薄暗くなっていた。秋から冬への移り変わりは驚くほど早い。

彼女は確か、歩いてきているはずだ。


「君は確か歩きだろう?もう暗い。大丈夫か?まだもう少しかかるが送っていっても、」


「あの、大丈夫です、今日はバスで帰ります。これ借りてもいいですか?読みたくて」


「ああいいとも、好きなだけ預かってくれて構わないよ」


ルーシーはペコリと頭を下げ、論文を片手にパタパタと部屋を出て行ってしまった。

やましい気持ちなどないのだが、年頃の子に送っていくとは不躾だっただろうか。だが暗い道は危険だ、いやそれより。



ジョージはドアを開き廊下を見渡してみたが、ルーシーの姿はとっくに消えていた。

最初から誰もいなかったみたいに、校舎は静まり返っている。

部活動に勤しむ生徒のかけ声かなにかが遠くから一瞬聞こえたような気がしたが、それも一度きりだった。


ジョージはルーシーの言葉になにかひっかかるものを感じていたが、結局それがなんなのかはわからないまま、アーサーのところへ向かい。

彼にぶつけられる、人たちの想いにのめりこんでいるうちに、ルーシーへの違和感のことなど忘れてしまっていた。









ドリー・エリオは、紙くず倉庫からバタバタと走って出て行くルーシーの姿を目にした。



あそこはくそつまらない教師ジョージ・ホワイトの巣屈だ。

チリとホコリと昔の本や資料のつまったゴミ溜め。虫だっていそう。おえっ。大掃除に当たったら最悪な部屋。


そんな部屋から慌てたように出て行くくそ真面目のルーシー。


勉強かなんかを聞きにいってたんだろう、優等生は放課後も勉強熱心なんだし。

話のネタにもならないなとドリーが思っていたその時。



資料室のドアが開き。ジョージが顔を覗かせ(ちょっと困ったような様子を伺うような。ドリーにはそう見えた)すぐに引っ込んでいった。



一体あの誰も寄り付かないゴミ部屋で、あの二人はなにをしていたんだろう。

こっちを見下すような諦めた目でわけのわからない話ばかりのおっさんと、自分は周りと違う頭がいいの一緒にしないでオーラを出してる優等生ちゃんが二人きりでなにを。


ドリーは少し楽しくなってきた。ここ最近面白い話題がなかったから、みんなに話したら絶対食いついてくる。

でもまだ全然証拠が、二人が怪しいってことにするにはまだまだ弱い。また見にきてみようか。ここに。

一体何時間一緒にいてなにを話しているのだろうか。


二人きりだ、もしかしたらあの子の優秀っぷりは偽りのものかもしれないし。先生をそそのかしているのかも。

真面目な子ほどっていうし!



教室に忘れ物を取りに来たはずのドリーは、結局なにも持たずにまた戻っていってしまった。

頭の中は新しいネタでいっぱいだった。


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