ジェイコブ③
ジェイコブの両親は島の自然に魅せられて移住した外の人間だった。
島の人は絶対にそう呼ぶ。
両親のことを外の者と呼ぶのを聞いたことはあるが、ジェイコブ自身は歓迎されていた。この島で生まれ育ったのだから、島の者だと。
子供ながらに嬉しかったのを二十年以上経った今でもはっきり覚えている。
ある時何を思ったのか、ジェイコブの両親は彼を連れて島を出た。外の世界にも触れるべきだと。
十一歳の少年ジェイコブは学校にろくに行かず毎日海や森で遊んでいたので、両親が将来を危惧したのかもしれない。
親と連絡を取っていない今となってはわからないが。
ジェイコブは行きたくなかった。自分から世界を奪おうとしている親を憎んだ。
しかし島の子に、これがどこから来るのか見てきてと言われ、そうすべきだと確信した。
確かに外に出なきゃわからないことがある。きっと自分でなければ誰も外には行かない。行けないだろう。それだけの金がない。
島の子に手渡された色鮮やかなプラスチックのゴミを握り、ジェイコブは両親に従った。
船に乗りバスに揺られ空港に着き、飛行機によってジェイコブは見知らぬ土地に運ばれた。
外はジェイコブをすぐに落胆させた。
溢れるヒトヒトヒト車ざわめきゴミ壁アスファルト騒音ビル。
こんなところでなにを学ばせたいのだろうか。
ジェイコブはもう二度と両親を好きになってたまるかと思った。顔を見ないようにした。
空港を出てすぐに頭痛と吐き気に襲われたが、親には言わなかった。
父親の、ただの不機嫌を顔に出しているんだろうという言葉を聞いていたからだ。
両親に連れ立って町を歩く。
同じように通りを行く人々は皆急いでいて、まるでなにかに追い立てられているようだった。
彼らは花や虫や動物を見たことがないのだろうか、美しい生に目を奪われないのか不思議でならなかった。
そもそも通りにあるのはきれいに整備された木が並んでいるだけなのだが。
アスファルトを突き破って伸びる小さな緑を見て、ジェイコブは泣きたくなった。
学校は少年ジェイコブにとって両親からの逃げ場になった。
原住民ばかりが住む小さな島から来たジェイコブはクラスメイトの興味の的となり、不自由はしなかった。
黒くウェーブのかかった髪に日焼けのせいで朝黒い肌、はっきりとした顔立ちに手足には原住民の手作りであろう、ミサンガに似ていてそれよりも細かく編みこまれたものを幾つもつけていた。
まるでテレビの世界から出てきたようなジェイコブは、同世代にも年上にも魅力的に見えたのだ。
書くことを今までずっとサボっていたために、字の乱雑さはどうしようもなかったが、勉強自体は嫌いではなかった。
なによりジェイコブは学ばなくてはならなかったのだ。
愛する故郷に流れ着くゴミをどうにかしたかった。
海洋学を扱っている教師のもとに何度も足を運び、海流や地形、生物学を指導してもらった結果、わかったのは海流の関係でどうしても海に流されたゴミが島に行き着いてしまうということだった。
運が悪かったと教師は言う。
ジェイコブは納得出来ない。
悪いのは海に廃棄する側ではないのか。
どうしようもないことはわかった、もうこれ以上ここにいる必要もなくなった。
あとは金を貯めてここから帰るだけだ、島に。
今家を飛び出したところで親に連れ戻されるだろう。優秀な生徒でいなければならない。成人したらさすがになにも言われないだろう。




