第三十八章 ポラリス
エーテル・ストライクのメンバーを乗せた機体は無事、島のヘリポートに着陸した。
真夜中にもかかわらず、ポートには大勢の人が集まっていた。近海でヘリコプター同士の銃撃戦があったからだ。群衆のなかに実桜ポラリスの姿があった。
「帰ってきたのがあなたたちだなんて……」
実桜の顔から生気が抜けていた。
「実桜。どう落とし前をつける? お前の野望は潰えた。罪を償えよ」
ライフル銃を背中に担ぐブレストは、実桜に対して勝ち誇った。
「こんなの嘘。私は、全能……」
実桜は抑揚なく、力なくつぶやいた。
警視庁ヘリから降りた小日向ひびき警部と、現地の警官隊によって実桜は連行されていった。
いくら権力を持とうとも、警察の機体に攻撃を加えたのでは、何人も弁解の余地はない。
エメラダはその様子をずっと見ていた。
「おつかれ、エメラダ」
渡良瀬ひとはが彼女の肩を抱いた。
エメラダは、喜びとも悲しみとも区別がつかない表情をする。
「ポラリスなんて……、もういや」
彼女は絞るような声を漏らした。
ブレスト・ドニセヴィッツが彼女のそばに来た。
「ポラリスは実桜と叔父のものじゃない。お前のものなんだ。自分の名前を言ってみろ」
「エメラダ・ポラリス」
「そうだ。合っている。これからが始まりだろ」
「だめ。叔父叔母には政治力がある……、この事件はなかったことにされちゃう」
そんなことを考えたらだめだ。
「わたしたちなんて、大きな力の前に簡単にひねり潰されちゃうんだ」
エメラダ……。
それ以上、悲しい顔をしないで。
俺たちの能力は、不幸になるために備わったわけじゃない。
エメラダ。君は、前にこう言った。
能力は自由への鍵。
いたたまれず俺は、彼女のそばに寄った。
「エメ、『ポラリス』の意味を知ってるかい?」
俺の問いに、彼女はこくりと頷いた。
「……北極星」
彼女は答えた。
「そう。あてどない銀河の広がりのなかで、一番に輝いている星、それが、ポラリス。でもポラリスは自分だけの力で星空を彩っているわけじゃない」
俺は北の方角をまっすぐ指さした。
「俺たちエーテル・ストライクが、周りの星星になって、エメの輝きを支えていくよ」
「もう、回りくどいな。もっとはっきりしな。むっちー」
コトミがもどかしそうに地面を蹴った。
「ウチはね。告白を見届けるために、旅についてきたんだからね」
俺は微笑んだ。
そして、俺はエメラダを抱きしめた。
「エメラダ」
「うん」
俺は彼女の耳元にそっと告げた。
「はじめて出会った時から、好きだった。ずっと守りたいと思っていた。もう、悲しまなくていい。俺が悲しませないから。世界のどんなやつを敵に回しても、俺は君を守るよ。これからも。これからも。ずっと」
「ムツキ……。ありがとう」
彼女の温かい涙が、夜風で冷えた俺の肩を濡らした。
空気が澄み、吸い込まれそうになるくらいの高い夜空に、北極星が新しい運命を告げるべく瞬いていた。




