第三十六章 ファイナリティ・ストライク
250秒
俺はラウンジに戻ったが、やはりコトミの姿はなかった。
「ムツキ、コトミちゃんは見つからない?」
「ああ。でも、諦めない。ただ、もうじきこの船は爆発するぞ! 俺のデスフラッグがそう告げている!」
「俺も頭が痛い。海に飛び込むしかないか」
ブレストにもデスフラッグが発動しているようだ。
かすかに、外からヘリの音が聴こえてくる。
「もしかして救援!」
エメラダが叫ぶ。
渡良瀬少尉が得意そうにカードを掲げた。
「実桜は、これを見逃した。これは警察用無線呼び出し端末だ」
「警察? ということは」
「ひびきから受け取っていたものだ。ひびきが来るよ。警視庁のヘリで」
「えー、ひびき警部が?」
「ひびきのやつ、私が小笠原に行くと告げたら、自分も島に行くって。あっちが一足先に着いている。島の警察のヘリで助けに来てくれる。私が呼んだのだから、絶対に来るんだ」
俺たちが助かる見込みは立った。
しかし、コトミの行方がいまだわからない。
「俺はコトミを探す。エメ、俺が間に合わなかったら先に脱出してくれ」
「ちょっと、ムツキ!」
100秒
俺はデッキを上り下り、船内を駆け巡る。
カウントが減るにつれて、絶望感が胸に迫ってくる。
「コトミー、コトミー!」
30秒
ヘリの音がより近くなった。
甲板に上がればヘリに載せて貰えるのだろう。
だが、コトミを置いて助かる気はない。
15秒
「あっ」
船内から甲板に出る扉の前にコトミがいた。
「むっちー」
「やっと見つかった!」
人気のない船内の異様な状況に、コトミの表情は不安に満ちていた。
彼女が思いもつかない恐ろしい事態が、あとほんのわずかな間に起ころうとしているのだ。
もう説明する時間はない。
「どうなってるの? 誰もいないよ? 人に遭ったらダメだって言うから隠れていたんだよ。ヘリコプターの音が聴こえるけど?」
「もういいよ」
俺はコトミの手をとって甲板に出た。
6、5、4秒
夜空に警視庁のヘリがあった。
エメラダが機体から身を乗り出して叫んでいる。
ヘリから垂れ下がる梯子に捕まるのはもう無理だ。
「上空に行ってくださーい」
3、2、1秒
「息を吸え、コトミ」
俺はコトミを抱いて闇の海に飛び込んだ。
フェリーは爆発して、一瞬にして轟沈した。
沈みゆく海の中で、すうっと頭が軽くなっていった。
デスフラッグからの解放だ。
もう一息だ。
俺はコトミを抱きしめて海面を目指す。
船から火の粉が飛び散っている。
当たるわけがない。絶対に大丈夫だ。
波間に顔を出すと、サーチライトが眩しかった。
ヘリコプターから垂れ下がる梯子を掴み、もう片方の手を差し伸べるエメラダがいた。




