第三十五章 コトミの行方
「この計画は、叔母さまの独断ですか?」
「いいえ。夫よ」
「叔父さまですか……」
エメラダはうなだれた。
血の繋がりはないが、唯一の親類であるポラリス家に彼女は裏切られた。
せっかく彼女に明るい表情が戻っていたのに。最悪の仕打ちだ。
「あなたたち以外の乗員は退避したようね。さようなら。エメラダ。恨まないでね。あなたたちの粛清は、私たちの事業計画によるものだから」
冷たい言葉を残して、実桜ポラリスはラウンジから出ていった。去り際に振り返ることもしなかった。
俺たちは船を脱出するヘリの音が遠ざかっていくのを、ただ無力にやりすごす。
暗闇に漂う一隻の船は、これから爆音を伴う一瞬の花火となって散ろうとしている。
「ぐおりゃっ。畜生、外れないぜまったく」
ブレストが手錠の鎖を引き千切ろうと、何度も力んでいる。
「ごめんなさい……。みんな。わたしのせいでみんなをこんな目にあわせることになって、本当に、ごめんなさい」
拘束されたままのエメラダは、エーストのメンバーに頭を下げた。
「謝らないで。みんなは納得してエメについてきたのだから。もうすこし……、ほら、外れた」
渡良瀬少尉は手錠を床に投げ捨てた。
「ひとちゃん!」
少尉は髪留めのピンをみんなの前に差し出した。
「キーピック。これ得意なんだ」
「すごい、どんな能力よりすごいよ! ひとちゃん!」
渡良瀬少尉は全員の拘束を解いた。
「ぐわー、きもちわりい」
すぐにブレストはラウンジの水差しをごくごくと飲み、多めに盛られた薬を中和した。
まだコトミの行方が知れない。
まずコトミを探したい。機関室に仕掛けられた爆薬はどうにもならない。
「俺はコトミを探してくる!」
「えっ、コトミさんも乗っているのか? いつの間に船に乗った?」
渡良瀬少尉が驚く。
「行って! ムツキ。コトミちゃんをかならず見つけてきてよ!」
「わかった」
エメラダの号令を背中に受けて、俺はラウンジをあとにした。
デッキの階段を飛び降り、コトミが残る船室に戻った。
コトミはいなかった。
「コトミ……」
自然に涙が浮かんでくる。
「コトミー、コトミー、どこだ!」
俺は叫びながら客室の廊下を走る。
「どこに行ったんだよ……」
コトミは乗組員に紛れてヘリで脱出したのだろうか?
ならば心配がひとつ減る。でも、その可能性は限りなく低い。
コトミは実桜ポラリスと面識があるからだ。
300秒
俺の脳裏に数字が浮かんだ。
この場に及んで、新しい能力が発現した。
この数字は、船が爆発するまでのカウントダウンだと俺は本能的に覚った。




