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第三十四章 目覚めの先に

 俺はフェリーの室内ラウンジにいた。

 体が動かない。気持ち悪くて今にも意識を失いそうだ。

 俺の横には、エメラダ、渡良瀬少尉、大きな体のブレスト・ドニセヴィツがソファにへばりつくように並んでもたれかかっている。

 みんなは後ろ手に手錠をかけられている。


「お目覚めね」

 俺たちを見下ろすように、実桜ポラリスが直立していた。

「実桜! これはどういうことだ!」

 ブレストが彼女に向かって怒鳴った。

「まあ、大きな声だこと。夕食に薬を盛ってあなたたちを眠らせました。通信機器も武器もすべて取り上げています。あなたたちはこの船とともに海の藻屑となるの」

「叔母さま……、どうして」

 エメラダは目を覚ましていた。

 

 実桜の切り揃えた前髪の下の細い目が、いっそう意地悪そうにエメラダを睨みつけた。

「ポラリスにあなたが邪魔だからに決まっているでしょ。あなたのおもちゃのエーテル・ストライクは大した実力ね。私が仕向けた黒服PMCをやっつけたもの」

「黒服PMC……、叔母さまが、黒服をわたしたちにぶつけていたの?」

「そう。黒服は私のコマ、いろいろな工作活動に使っているわ」

 実桜ポラリスはブレストの前に立った。

「ブレスト。お前はバルカンの民兵の軍閥ぐんばつを狙撃する名スナイパーだった。妻の仇を討つために復讐の鬼となっていた」

「くそおっ、俺のことをペラペラしゃべるな」

「お前が軍閥に拘束されたとき、私が金を出して自由にしてやった」

「自由だと! 聞いてあきれる」

「お前の狙撃の腕は抜群だ。そのまま黒服PMCの一員に洗脳するのは惜しかった。そしてお前には能力がある」

「お前のために力を使うものか!」

 ブレストは後ろ手に力を入れて鎖を切ろうとする。

 実桜はブレストの顎を蹴り上げた。

「人より多めに薬を盛ったけど、まだ力が余っているのね。チャンスをあげるわ。私のほうに来なくて?」

「断る」

 吐き捨てるようにブレストは言った。


 実桜はため息をつき、それからエメラダの前に立った。

「み・お・う、叔母さま……」

 叔母を見上げるエメラダの瞳から涙がこぼれている。

「ポラリス社は私たち夫婦だけで握る。あなたは能力を持っているからこそ、やっかいなの」

「叔母さま、わたしはポラリスに必要ない? 家族としても?」

 エメラダの声が痛々しくかすれている。

「あなたはポラリスがどのくらいの力を持っているかわからないでしょう? 日本国防軍はポラリスが日本政府を指導して創設された。ポラリスなしで日本はやっていけない」

「思い上がりもよしてください!」

 元国防軍の人間として、渡良瀬ひとは少尉が口をはさんだ。

「このフェリーの機関室に爆薬をしかけました。たとえ、船が轟沈しようとも、海上保安セクションに話をつけてあるから。この船はどうにもできるわけ。どういう説明もできるわけね。それがポラリスの力」

 実桜ポラリスは全能感に身を震わせていた。


 爆薬……。


「わたしを殺すために、大掛かりなことをして――」

 エメラダは嗚咽を始めた。

 フェリーの運行はゆっくりだった。

 24時間以上経過してもまだ小笠原には到着していない。

 この旅は実桜ポラリスの策略だったのだ。


 船の外からヘリの音が聴こえてきた。

「叔母さま。ムツキを……、ひとはを、お願いだから助けて!」

「エメラダと絡んだ以上、無理。能力者はほかにもいるのだから」

 実桜は目を細め、無慈悲に言放った。

 俺の頭に痛みが生じた。

 死亡率85%

 デスフラッグが発動した。

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