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第三十二章 ひとはの決心

 俺は、船酔いしたコトミのために、薬と朝食を運んでやったが、彼女はベッドに寝転がったままでいる。

「いいかげん、風に当たってこいよ」

「だって、部屋から出たらダメなんでしょ。むっちーがそう言った」

「大丈夫だよ。きれいな海だよ」

「景色なんて珍しくないもん。ウチ、船旅行よくしてるしー」

 コトミのためを思って言ったのに。

 勝手に密航したのはそっちのほうだ。

「じゃあ、おとなしくしていろよ!」

 俺はむすっとして船室を出た。


「さて、どうしようかな」

 上階の豪華な室内ラウンジで、リクライニングに体を預けてゆっくりしようか。いや、こんな天気の日は、ずっと外にいて海風に当たったほうが気持ちいい。


 フェリーの甲板には、渡良瀬ひとは少尉と才賀ポラリスがいた。

 渡良瀬少尉は、大きな胸を主張するスポーティな白のTシャツにジーンズという格好だが、紫外線対策のために日傘を差している。それがすこし不釣り合いに映った。


「おはようございます。少尉」

「草刈。おはよう」

「少尉。実桜さんの子供のお守りですか?」

「草刈。もう、私を階級名で呼んでくれるな」

 彼女は日傘で顔を隠した。

「えっ、少尉じゃない……。もしかして、国防軍を……」

「やめたんだ」

 それを聞いて俺は、胸に針が刺さるような痛みを感じた。

 

 いまの俺があるのは、渡良瀬少尉が日本国防軍少年特別専攻科(特専)の教官として、しっかり指導をしてくれたおかげだ。

 しかし、特専の意義は、能力を持つ生徒を発掘するためにあることや、少尉が能力者の監視という役割を国防軍から当てられている実情を知ってしまった。

 俺には軍に戻ろうという気はさらさらない。


「私は、エメとお前を見張っていると言ったが、実は何もやってなかった。相次ぐミッションに、私はただ振り回されて、自分が何をやればいいのか、わからなくなっていた。そんな中で、先の作戦で私はエメの心を傷つけてしまった」

「……エメは少尉をずっと信頼していると思います」

 エメラダには、渡良瀬少尉が必要なんだ。

 渡良瀬少尉は、姉のようにエメを癒してあげられる存在なんだ。


「私はけじめをつけたい。私は一個人として、エメラダとエーテル・ストライクを支えていくつもりだ」

「軍をやめても、渡良瀬少尉はいつまでも、俺たち特専の恩師であり続けます」

「ありがとう。特専の生徒たちが懐かしいな」

「少尉はニックネームでいいですか。いまさら、ひとはちゃんとは呼べないですからね」

「ははは。わかった」

 渡良瀬少尉の顔色が、空の晴れ晴れとした空模様とひとつになった。

「少尉。真木アオイと連絡をとっているでしょ? この前、真木からちょっかいをかけられました」

「真木な。メールで来たよ。真木は草刈に戦いを挑んで返り討ちにあったって」

「真木は俺になんらかの能力があると感づいていましたね。真木は能力の存在すら知らないのに。いやあ、あいつは実力あるな。女らしさもでてきていい感じでしたよ」

「草刈はエメラダが好きなんだろう」

 少尉は日傘の影のもとでにやりとした。

「は、はい? 突然ですね」

 不意打ちにも似た彼女の発言に言葉が詰まった。


 真木だな。

 あんにゃろーが、この前の問答を渡良瀬少尉に告げたのか。

 あんにゃろーめ。

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