第二十八章 能力は自由への鍵
ある日の午後、俺は都心にある公園のベンチに座っていた。
穏やかな日差し、穏やかな風、木々の息吹、何もかもが心地よく感じられる。
子供の手を引く母親、平日の足早なスーツのビジネスマン、放課後の自由を味わう学生たちを眺めながら、俺はエメラダ・ポラリスを待っていた。
はじめは一人で公園を歩いていた。こんなすがすがしいひとときを彼女と味わいたくなって、GPフォンで呼びだしたのだ。
彼女はすぐに来てくれた。
彼女は白いブラウスに赤いチェックのスカート、肩掛けのポーチという姿だ。
それは南国の基地で初めて出会ったときと同じ、彼女の好きなアイドルユニットの服装だ。
懐かしさで思わず涙がこぼれそうになる。
太陽は彼女を金色の光に包もうとしていた。彼女の髪を風は豊かな穀倉の稲穂のように程よくなびかせた。
「もしかして、メルティアイス?」
俺の問いかけに反応して、彼女は長い睫毛と神秘的なグレーの瞳を閉じてうなずいた。
デスフラッグの能力は、俺たちに残酷な非日常の世界を容赦なく見せつけてくれた。
でも、この世界にいて良かったと思う。
エメラダが今、俺の目の前にいる。
このことがほかのなによりも代えがたい収穫だ。
いまも俺たちは監視されているのだろうか。
「そんなの気にしない!」
エメラダは言う。
「そうだね。公園の人たちもエメを見てるし」
「わたしはそこらのアイドルとは、違うもんね」
自分はより美しいということを彼女は臆せずに言ってのけた。
エーテル・ストライクの活動はしばらくお休みだ。
それでもエメラダは忙しいだろう。誤った作戦情報をエーテル・ストライクに渡したポラリス社の真意を、彼女は叔母の実桜ポラリスに確認してもらっているそうだ。
前回の作戦で、渡良瀬少尉とは、微妙な距離が生まれてしまった。
国防軍やポラリス社が俺たちの知らないところで動いていることを知った。
思い起こせば、コトミの家でエメラダと再会したとき、周辺に国防軍の警護がついていた。それは、監視でもあったのだ。
「わたしたちには能力があるから、いろいろと不自由になってる。けれど、わたしたちが自由になるのも、能力によってでしかないと思う」
能力で、この次元よりももっと高い場所に昇ることができる。彼女はそんな期待を持たせてくれる。
「南へ遊びにいこうと思うの。エーテル・ストライクのメンバーで」
「リフレッシュ? いいね」
エメラダと渡良瀬少尉が水着姿でビーチにて戯れている光景を俺は想像した。ともかく、光があふれる場所へ飛び出していきたかった。




