第二十六章 Enter the darkness Part3
「ひとちゃん……。作戦がうまくいくって……、どうしてわかるの? 説明してよ……」
エメラダは、渡良瀬少尉にそう問いかけた途端に頭を抱えた。
俺の側頭部に鋭い痛みが走った。
死亡率15%
デスフラッグだ。
エメラダにも、これと似た症状がでているのだろう。
「お前ら。前を向いて走れ!」
ブレスト・ドニセヴィッツが叫び、彼は背後の漆黒に向かってサブマシンガンを発射した。
坑道を進む俺たちを何者かが追跡して来たのだ。
敵が放つ弾の曳光が、流れ星になって襲ってくる。敵は複数いる。
「ブレスト! エメラダのために壁になってくれ!」
「まかせろ。行けー。お前たちは行けー!」
ブレストの号令をもって、俺はエメラダの手を引いて、渡良瀬少尉とともに駆け出した。
「敵に追われていたなんて……」
エメラダは走りながら、我を疑うようにタブレットの画面を眺める。
「エメ。そんなものを見るなら前を向け! 走れ!」
情報端末は敵の襲来を教えてくれなかった。
自分たちに備わった能力が、己を助けてくれた。
俺とエメラダと渡良瀬少尉の三人は、地下鉄の三駅目に到達した。
ここがテロリストの潜伏箇所だ。
島式のプラットホームの中央に四角い柱が並んでいる。
「エメ、ホームの柱に潜めよう」
「うん」
俺とエメラダは島に上がり、コンクリートの柱に身を寄せた。
冷たい壁が背中の火照りを吸い取っていく。
灯りに乏しいが、当然に人の気配がある。
幽霊でなくてむしろ良かったと思う。
心細かった坑道の行進がこれで終わりとなると、気分が楽になる。
問題は、彼女たちを守りながら戦わなくてはならないことだ。
敵の集団は迎撃を開始した。線路に飛び降りて、島にいる俺たちを狙おうとする者がいる。
俺は柱に隠れたまま、ハンドカンを発射し、坑道の敵を仕留めた。
やはり、シグの反動にはまだ慣れない。
「睦月。わたしが援護するから、出ていいよ。そのほうが撃ちやすいでしょ」
自信ありげに目を輝かせながら、エメラダはサブマシンガンを手に取った。彼女は興奮で頭の痛みを忘れている。
「おいおい、突撃しろってこと? 戦いのやり方わかってる?」
「ほら、ひとちゃんが飛び出した」
エメラダの目先に、黒髪の美女が駆けてゆく姿があった。
渡良瀬少尉にはデスフラッグの能力がない。
「なんて、無茶な! 援護します! 少尉」
俺は柱から身を投げ出した。
少尉は両手にハンドガンを構えて、階段からホームに降りてくる敵を狙い撃つ。
的確なヒットだった。
少尉が弾のカードリッジを交換する隙を狙う敵を、俺は撃った。
エメラダが柱からひょっこり顔を出して、デタラメな援護弾を送ってくれる。
死亡率0%
頭は蒼空のように晴れやかになっていた。
さらに、サブマシンガンの火力が加わった。
「さあ、敵を葬るぜ」
後方の敵をすべて倒したブレストがエーテル・ストライクに追いついた。




