第二十四章 Enter the darkness Part1
「渡良瀬! 車に乗れ。作戦をやるかやらないかは、お前が判断することじゃない」
ブレストの野太い声が街道に走る。
渡良瀬ひとは少尉は、衆目から逃れるようにバンに乗り込んだ。
俺の隣に座る彼女は、長い髪と息を乱している。
キャミソールドレスの胸の谷間が汗に濡れて、てかっていた。
俺は生唾をごくんと呑みながら、少尉が作戦参加に躊躇する理由を考えた。
もしかして、渡良瀬少尉にも能力があるのだろうか?
「ひとちゃん……。戦いには無理に参加しなくていいんだよ。だけど、今回は、わたしが戦わなくちゃいけない相手なんだ」
エメラダは、フロントの遠い車窓の景色を眺めていた。その物言いには強い意志が感じられた。
「戦うべき相手って、敵はどんなやつらなの?」
俺は彼女にたずねる。
「航空機をハイジャックして爆破したテロリスト集団」
「!?」
俺の胸が熱く脈を打った。
敵はエメラダ、そして俺の家族を殺害した者である可能性が高い。
俺はハンドガンの弾倉を引き抜き、再び装填する動作を無意識に行った。
かたき討ちだ。
「落ち着いて。どこからの情報か教えて」
渡良瀬少尉が質問をはさむ。
エメラダは一呼吸を置いた。
「ポラリス社の情報分析班がつきとめたのよ。敵は地下空間にいるって。その集団は羽田に行って、またテロをやるって傍受した……」
「その情報は、本当なの?」
「だって、ポラリスよ?」
どこに疑いの余地があるの? と言いたげな表情でエメラダは少尉に問い返した。それから少尉は考えるように黙り込んだ。
ポラリス社が提供する情報をもとに、エーテル・ストライクが掃討作戦を実行する。
そのプロセスに特段おかしな点はない。
車はとあるビルの地下駐車場に入った。
広々として、車の台数は少なかった。人影がなく閑散としている。
「さあ、車はここに置いていくわよ」
エメラダはサブマシンガンを携えて車外に出た。
ブレスト・ドニセヴィッツはサーチライト付きのサブマシンガンだけの装備だ。彼はトレードマークであるスナイパーライフルを持っていない。
「渡良瀬。来るのか?」
ブレストが少尉に確認をとる。
「行く、わ……」
少尉は、赤いキャミソールドレス姿まま、ハンドガンと携帯端末を手にした。
エーテル・ストライクの全員が作戦に参加する。
俺はハンドガンのセーフティを外した。
地下駐車場の隅にある、何の変哲もなさそうな金属製の扉が、地下空間への入口だった。




