第二十章 小さな影
自宅マンションの玄関を出たとき、急に目の奥が熱くなった。
誰かが、こちらをうかがっている。
そんな気配がする。
テロリストたちに、エーテル・ストライクの面が割れて、俺が標的にされているのも不思議じゃない。
そうならば、たびたび遊びに来るコトミの身が心配になってくる。なんとしても相手を仕留め、正体を明かさなければならない。
俺は誘うように駆け出した。相手は、野生の犬さながらに追跡を始めた。
道路の下を横断する地下道に入った。
古ぼけた蛍光灯の頼りない明かりのみで、人影はない。
敵が攻撃をしかける絶好の場を用意した。
「!」
背後から小さな影が現れ、素早い動きで、俺の腰のシグ・ザウアーハンドガンを目がけて蹴りを入れてきた。
とっさに交わすも、相手は連続して俺の胴体に回し蹴りをかました。
銃を手にする余裕はない。
俺は両腕をクロスさせて、その蹴りを受け止めた。
衝撃の度合いから、相手はかなり軽いとわかった。
子供なのか?
ただ、姿を見せずに追跡する技能があるし、ただものでないはずだ。
小さな影の足を払おうとすると、相手は飛び上がり、そのまま俺の頭をめがけて蹴りを入れようとする。
「!」
この動きに見覚えがあった。
俺も相手の立場ならそう動く。
無意識に、自然に体が覚えている。
俺は少年特別専攻科で習った近接格闘の要領で、くりだされた蹴りを脇で抱えて封じ、相手が仰向けになるように床に押し倒した。
「えへへ。格闘じゃ、睦月にゃかなわない」
透きとおった、聞き覚えのある声がした。
相手は、特専で同期の少女の真木アオイだった。




