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第十九章 日常へと帰る場所

 ソファに座る俺の後ろに、コトミが回りこんだ。

「あのさ。どうしてむっちーは、エメラダと一緒にいないの。そのほうが任務とかやりやすいでしょ? エメラダ、可愛いじゃーん。もう十分知り合っているじゃない?」

 コトミは手にした札束で、俺の頬をぺしぺし叩く。

「どうだか」

 俺は映画の画面をまっすぐ見つめた。


 なぜ能力を得たのか。


 エーテル・ストライクに所属し、能力を使ってミッションをこなしていく。

 それが、答えにたどりつくための一番の近道だ。

 

「基地のときから一緒なんでしょ?」

 コトミは、俺の肩首に腕をまわして、堰を切るようにたずねてくる。首筋に吹きかかる息が、くすぐったい。

 

 GPフォンのメールの呼び出し音が鳴った。

「あーあ、来たっ」

 エメラダからの連絡だと感づいたコトミは、俺から身を離した。


『ハロー、ムツキ。今日の訓練に参加してね。送ったシグを忘れないでね』

 電車で三駅ほど離れた街中に、射撃訓練場を備えたポラリス・インダストリィ社所有のビルがある。

 そこはエーテル・ストライク専用のジムになっている。

『了解。楽器ケースで送るやり方はもうダメだぞ。直接渡してくれよ』

 俺は親指に力をこめて送信した。


「コトミ、これから家を出るよ」

 彼女は俺の目の前で両手を合わせた。

「あのさ。ウチ、ここで待っていてもいい?」

 彼女の手のひらから札束が落ちて、床に散らばった。

 

 俺は気づいた。

 コトミは、俺とエメラダの関係を嫉妬しているのではない。

 俺が非日常の世界に取り込まれて、戻れなくなることを心配しているのだ。

「むっちーの帰りを待つだけ。明日、学校休みだし、ねえ、今夜泊まってもいいでしょ」

 彼女の祈りにも似た懇願が、俺の胸を動かした。


 非日常から、日常へと帰る場所。


 そこにコトミがいてくれるのなら、確かに心強い。

「いいよ。伯父さんと伯母さんの許しを得るんだぞ」

「うん。お金、数えておくね」

「ありがとう。今日は早く帰るから」

 俺は新しいシグを携えて部屋を出た。

 俺にとって、エメラダ・ポラリスは非日常側の存在なのだと思った。

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