第四話;ホワイト
漆黒垂れ込める中、月が蒼い程白くビル群の陰から覗き、明かりの乏しいこの街の夜を
灯している。
崩れかけたような風体の、暖色の灯りのはいった薄暗いバーのカウンターで、女が座っている。黒いライダースーツの上半身を脱ぎ、白いTシャツには”HELL”とプリントしてある。うなじの辺りでカットした黒髪、白い肌に細身、夜を流したかの様な黒い眼が闇の中で光
る。
「お客さん、パーティーに行きたいんですか?」
バーテンが女に聞いた。
「ここらでやってるパーティーって言われる物は、しったかめっちゃかな代物で、まともな人
間は近寄ろうともしませんよ。危険だからよしなさい」
「何処でやってるの?」
「私も詳しくは知りません。場所もその都度変わる様ですし。」
「裏の人間が絡んでいるでしょう?」
「まあ、当然でしょう」
「ありがとう、飲み代は幾ら?」
そして女は外へでた。遥か彼方に月があった。空を見上げ、彼女は暫し星を愛でた。
永遠に続くものが果たしてあるのか?と彼女は考えた。星は永遠か?宇宙は永遠か?
命は?死は?
思索の遊びに浸りながら、彼女はライダースーツのファスナーを閉じた。周りの空気が変わっているのに気が付いた。
そこらの影から、ジャージやら、スーツやら、雑多な格好の男たちがあらわれ、彼女の行く手
を阻むような位置に陣取った。
「お姉さん、カッコいいな、遊ばんか?」
ウィンドブレーカーを着た男が正面に立って言った。
「レディの誘い方としては最低ね・・・力ずくでもヤル気でしょう?」
「俺も鬼じゃない。大人しくしていれば、優しくするし、いいブツもやるぜ」
ヒュッと彼女が息を吐くと同時に、眼の前の男がふっ飛んだ。
強烈な拳の一撃で、顎を砕かれたのだ。周りの男達に動揺が走る。
「お、女の癖に、”YAKUZA”なめんじゃねーぞ!」
つかみ掛かってきた男の膝を、一撃で折った。(一体いままで何本の足を折って来たやら、と彼女は思った)
「おもしれー、俺が相手してやる」
発達した上半身を露にした男が、ステップを踏みながら、左右のジャブで牽制してくる。肩
から背中一面、東洋の神の彫り物でいっぱいだ。彼女の出してくるローキックをかわして、
踏み込んで素早いコンビネーションを打ち込んでくる。男のボディーブローで、彼女の体が
ガードごと浮き上がる。
「かはっ」
呼吸が乱れたタイミングを見計らって、男が渾身の右フックを頭部に見舞う。腕ごと潰す気だ。
「おぉ!」
呻いたのは男のほうだった。フックを打ち込んだ男の右腕の手首に、彼女の肘が思いっきりめり込んでいる。
ジャージの男が角材を振り下ろした。当たれば頭が弾けるような一撃だった。だが男の方が
斃れた。角材をへし折って、手刀が男の顎を砕いていた。
彼女が背後まで右足を上げ、何かを蹴った。鉄パイプを振り下ろした男である。
自分の持ってた鉄パイプを鼻っ面にぶつけられて、顔面血だらけになっている。
「お、覚えていやがれ、無事で済むと思うな!」
男達はばらばらと逃げ出した。
彼女は鼻血を出してうずくまっている男の顔をつかみ、言った。
「八代という男を知っているか?」
「し・・・知らない・・・う〜ん」
男は気を失った。
彼女は通りを彷徨い、まともな電話ボックスが無いかとさがした。角に料金入れが壊されているものの、何とか動きそうな電話を見つけて、硬貨をいれた。硬貨が下から戻ってくるのが
なんだか妙だったが、機械自体は作動している。
「報告します。こちら連邦麻薬捜査局ナオミ・ホワイト。今日付けでジャパニーズ・シティに潜入しました」