第二話
ビル型駐車場にて、コンクリートの柱の間に、メルツェデスからフォード、ヒュンダイ、
ルノーにボルボ、あらゆる階層と文化圏の車がならんでいる。
「おおい、リー、早く来いよ」
バナナを小脇に挟んだリーが運転席にもぐり込み、フレッドが助手席から手を伸ばして
車の屋根に赤色灯をくっ付けた。
セルを捻ると、二人の乗った白いポンコツのシトロエンの全身に、ゆっくりと油圧が行き渡り、
走行可能の状態へと、のそりと身を起こした。途端、サイレンもけたたましく、前輪をスピン
させながら駐車スペースから発進し、前方へとぶっ飛んだ。
街路樹とテラスの並ぶ小奇麗な街並みを、騒音と黒煙を撒き散らしながら、鯨みたいな形の年代物のハイドロ車が突っ切ってゆく。
「整備不良車の無謀運転だ、警察を呼べ!」
テラスでサンドウィッチを食べていた紳士が叫んだ。
「日本人居住区で殺人…ありふれて事件にならないよ!」
ハンドルを握りながら、ノイズに負けじとリーが叫んだ。
「住民の殆どはこういう捜査には非協力的、事実上の無法地帯だ!」
とフレッド。
「書類入れの奥に突っ込まれるだけの事件調書に何の意味があるんだい?フレッド」
「スラムに生きて、死んだ・・・俺らに出来るのは、ただ記録してやる事だけだ」
「あそこの連中は、俺たちを嫌ってるよ」
「日本全土が、核の炎にさらされた。生き残った人々が難民として世界中に散らばった。
合衆国だけが、大量の日本人受け入れにOKをだした。ただ一握り、成功して栄える物も
いるが、多くは定められた居住区で、貧困のままに暮らしている」
「あまり感謝されてない、てわけねこの国は」
車はやがて新市街地を抜け、使い古されたビルと、バラックとテントの並ぶ薄汚れ、悪臭
漂う街にたどり着いた。
建物の窓から、階段に腰掛けた若者から、洗濯している女から、いたる処から視線を感じる。
「着いたよ、居住区に」
リーは車のスピードを落とした。
フレッドが呟いた。
「今夜のディナーはサシミだ」