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産廃屋のおっさんシリーズ

タケシトだけは、だいたい合ってる

掲載日:2026/05/04

今回はタケシト視点の話です。


普段は騒いでばかりのあいつですが、

たまにはそれっぽいことも言います。


……たぶん。

ユージア国の酒場は、今日も騒がしかった。


「だから言っているでしょおお!ユージ様はもっと女心というものを勉強してください――!」


「はいはい」


「朴念仁は美徳じゃないんですよぉ」


ナーチャンの絡み酒が炸裂している。


その横で――


「……あの一手はな、抑止として完成されていた」


リシュンが熱弁している。


「撃てる状態を見せて撃たない。あれこそが――」


「循環の理じゃな」


神楽耶が頷く。


「流れを止めず、しかし乱さぬ。あやつはそれを――」


「……」


少し離れた席で。


タケシトは黙々と肉を食っていた。


「おい」


誰も見ない。


「おいって」


無視。


タケシトはため息をついた。


「……いやさ」


声を上げる。


「全部違くね?」


ぴたり、と空気が止まった。


ナーチャンが振り向く。


「何がですか?」


リシュンも眉をひそめる。


「どの部分の話だ」


神楽耶は楽しそうに笑った。


「申してみよ」


タケシトは肩をすくめる。


「ユージの話だよ」


一拍。


「なんかさ、お前ら難しく考えすぎじゃね?」


沈黙。


「ユージってさ」


肉を一口食う。


「ただ思ったこと、そのままやってるだけだろ?」


「……」


誰も答えない。


「普通さ」


「やろうと思っても止まるじゃん」


「立場とか、空気とか、後の面倒とかさ」


ナーチャンの眉がぴくりと動く。


「でもあいつ」


タケシトは酒をあおる。


「そういうの全部すっ飛ばしてやるじゃん」


一拍。


「つまり、馬鹿なんだよ」


「……不敬ですね」


ナーチャンが低く言う。


「浅いな」


リシュンが腕を組む。


「雑じゃの」


神楽耶が笑う。


タケシトは、少しだけムッとした。


「でもな」


ぽつりと続ける。


「そういう馬鹿が、一番強いんだと思うぜ」


沈黙。


誰も乗らない。


タケシトは、杯をくるくる回した。


「……実はさ」


声が少し落ちる。


「俺の妹が、ある時倒れたんだ」



◆回想


「不作の年でさ」


「ろくなもん食えてなかった」


「そしたら、歯茎とか昔の傷とかから血が出てきて」


「日に日に弱っていくんだわ」


「どうしようもなかった」


一拍。


「そこに来たのがあいつ」


「ユージだよ」


鼻で笑う。


「ほんと、たまたま通りがかっただけだからな、あいつ」


「事情聞いて、ちょっと見て――」


「『ああ、壊血病だな』って」


「は?ってなるだろ普通」


「で、どっか行ってさ」


「戻ってきたと思ったら、あの黄色いクソ酸っぱい果物、山ほど抱えてんの」


「『これ食わせとけ』だと」


「いや、それ誰も食わねえやつだろって言ったら」


タケシトは肩をすくめる。


「『まあ、黙ってやってみろ』」


「そう言って、ぐしゃって絞って」


「汁飲ませろって」


「ビタミンCがどうとか言ってたな」


「意味わかんねえだろ?」


「でもまあ、他に手もねえし」


「言われた通りやった」


一拍。


「……そしたらさ」


「一週間もしねえうちに血が止まって」


「顔色戻って」


「飯食えるようになって」


「一ヶ月後には、普通に走り回ってやがんの」


沈黙。


タケシトは酒をあおる。


「驚いたぜ」


「ほんと、何でもねえ顔してやりやがるんだよ、あいつ」


一拍。


「しかもさ」


「俺と妹で、お礼持って行ったんだよ」


「そしたらあいつ、なんて言ったと思う?」


少し笑う。


「『なんだっけ』だぜ」


「助けた本人が、すっかり忘れてやがんの」


「で、俺が説明して、やっと思い出したと思ったらさ」


肩をすくめる。


「『じゃあ今度、酒でも飲もうぜ。それでチャラな』だとよ」


鼻で笑う。


「こっちは真面目に礼しに行ってんのにさ」


「ほんと、ふざけた奴だぜ」



◆現在


「だからさ」


タケシトは顔を上げた。


「困ってるやつ見たら」


一拍。


「面倒でも手出しちゃうだけなんだよ、あいつは」


静まり返る。


ナーチャンが首を振る。


「違いますね」


リシュンも即答する。


「それでは説明にならない」


神楽耶は笑った。


「やはり雑じゃ」


「……だよな」


タケシトは肩をすくめた。


「まあいいけどさ」


その時。


「何の話?」


ユージが戻ってきた。


手には皿。


肉が乗っている。


「お前の話」


タケシトが言う。


「俺?」


ユージは首をかしげる。


「なんかややこしいこと言ってたぞこいつら」


タケシトが指さす。


「抑止だの循環だの」


「……なんだそれ」


ユージは苦笑した。


一拍。


「そんな大したことしてねえよ」


肉をつまむ。


「俺さ、考える前に動いちゃうんだよな、昔から」


「だいたい後で面倒なことになるんだけどさ」


「まあ、性分だな」


沈黙。


タケシトが、にやりと笑う。


「ほらな?」


――誰も、何も言わなかった。

最後までお読みいただきありがとうございます。


いろんな人がいろんな見方でユージを評価していますが、

タケシトだけは、やたら雑な理解をしています。


でも、もしかしたら――

一番シンプルで、一番本質に近いのかもしれません。


本人はたぶん、何も考えていませんが。


次はまた、別の視点で書いてみようと思います。

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