タケシトだけは、だいたい合ってる
今回はタケシト視点の話です。
普段は騒いでばかりのあいつですが、
たまにはそれっぽいことも言います。
……たぶん。
ユージア国の酒場は、今日も騒がしかった。
「だから言っているでしょおお!ユージ様はもっと女心というものを勉強してください――!」
「はいはい」
「朴念仁は美徳じゃないんですよぉ」
ナーチャンの絡み酒が炸裂している。
その横で――
「……あの一手はな、抑止として完成されていた」
リシュンが熱弁している。
「撃てる状態を見せて撃たない。あれこそが――」
「循環の理じゃな」
神楽耶が頷く。
「流れを止めず、しかし乱さぬ。あやつはそれを――」
「……」
少し離れた席で。
タケシトは黙々と肉を食っていた。
「おい」
誰も見ない。
「おいって」
無視。
タケシトはため息をついた。
「……いやさ」
声を上げる。
「全部違くね?」
ぴたり、と空気が止まった。
ナーチャンが振り向く。
「何がですか?」
リシュンも眉をひそめる。
「どの部分の話だ」
神楽耶は楽しそうに笑った。
「申してみよ」
タケシトは肩をすくめる。
「ユージの話だよ」
一拍。
「なんかさ、お前ら難しく考えすぎじゃね?」
沈黙。
「ユージってさ」
肉を一口食う。
「ただ思ったこと、そのままやってるだけだろ?」
「……」
誰も答えない。
「普通さ」
「やろうと思っても止まるじゃん」
「立場とか、空気とか、後の面倒とかさ」
ナーチャンの眉がぴくりと動く。
「でもあいつ」
タケシトは酒をあおる。
「そういうの全部すっ飛ばしてやるじゃん」
一拍。
「つまり、馬鹿なんだよ」
「……不敬ですね」
ナーチャンが低く言う。
「浅いな」
リシュンが腕を組む。
「雑じゃの」
神楽耶が笑う。
タケシトは、少しだけムッとした。
「でもな」
ぽつりと続ける。
「そういう馬鹿が、一番強いんだと思うぜ」
沈黙。
誰も乗らない。
タケシトは、杯をくるくる回した。
「……実はさ」
声が少し落ちる。
「俺の妹が、ある時倒れたんだ」
⸻
◆回想
「不作の年でさ」
「ろくなもん食えてなかった」
「そしたら、歯茎とか昔の傷とかから血が出てきて」
「日に日に弱っていくんだわ」
「どうしようもなかった」
一拍。
「そこに来たのがあいつ」
「ユージだよ」
鼻で笑う。
「ほんと、たまたま通りがかっただけだからな、あいつ」
「事情聞いて、ちょっと見て――」
「『ああ、壊血病だな』って」
「は?ってなるだろ普通」
「で、どっか行ってさ」
「戻ってきたと思ったら、あの黄色いクソ酸っぱい果物、山ほど抱えてんの」
「『これ食わせとけ』だと」
「いや、それ誰も食わねえやつだろって言ったら」
タケシトは肩をすくめる。
「『まあ、黙ってやってみろ』」
「そう言って、ぐしゃって絞って」
「汁飲ませろって」
「ビタミンCがどうとか言ってたな」
「意味わかんねえだろ?」
「でもまあ、他に手もねえし」
「言われた通りやった」
一拍。
「……そしたらさ」
「一週間もしねえうちに血が止まって」
「顔色戻って」
「飯食えるようになって」
「一ヶ月後には、普通に走り回ってやがんの」
沈黙。
タケシトは酒をあおる。
「驚いたぜ」
「ほんと、何でもねえ顔してやりやがるんだよ、あいつ」
一拍。
「しかもさ」
「俺と妹で、お礼持って行ったんだよ」
「そしたらあいつ、なんて言ったと思う?」
少し笑う。
「『なんだっけ』だぜ」
「助けた本人が、すっかり忘れてやがんの」
「で、俺が説明して、やっと思い出したと思ったらさ」
肩をすくめる。
「『じゃあ今度、酒でも飲もうぜ。それでチャラな』だとよ」
鼻で笑う。
「こっちは真面目に礼しに行ってんのにさ」
「ほんと、ふざけた奴だぜ」
⸻
◆現在
「だからさ」
タケシトは顔を上げた。
「困ってるやつ見たら」
一拍。
「面倒でも手出しちゃうだけなんだよ、あいつは」
静まり返る。
ナーチャンが首を振る。
「違いますね」
リシュンも即答する。
「それでは説明にならない」
神楽耶は笑った。
「やはり雑じゃ」
「……だよな」
タケシトは肩をすくめた。
「まあいいけどさ」
その時。
「何の話?」
ユージが戻ってきた。
手には皿。
肉が乗っている。
「お前の話」
タケシトが言う。
「俺?」
ユージは首をかしげる。
「なんかややこしいこと言ってたぞこいつら」
タケシトが指さす。
「抑止だの循環だの」
「……なんだそれ」
ユージは苦笑した。
一拍。
「そんな大したことしてねえよ」
肉をつまむ。
「俺さ、考える前に動いちゃうんだよな、昔から」
「だいたい後で面倒なことになるんだけどさ」
「まあ、性分だな」
沈黙。
タケシトが、にやりと笑う。
「ほらな?」
――誰も、何も言わなかった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
いろんな人がいろんな見方でユージを評価していますが、
タケシトだけは、やたら雑な理解をしています。
でも、もしかしたら――
一番シンプルで、一番本質に近いのかもしれません。
本人はたぶん、何も考えていませんが。
次はまた、別の視点で書いてみようと思います。




