第9話 『手のひら上の決闘』
一人になった控え室で椅子に腰掛けて集中する。
だが、できない。
酒が飲みたい。
朝から一滴も飲んでないせいか、手が震えてきた。
倦怠感が酷い。頭が痛い。吐き気もしてきた。冷や汗が止まらない。
こんな状態で戦えるわけがない。
禁断症状に苦しんでいると部屋に誰かが入ってきた。
エメリと賢者だ。
「うわっ、凄い汗。緊張してるの?」
不安そうに首をかしげるエメリ。
賢者は苦笑いをしつつ、ローブからある物を取り出して俺に渡した。
こ、これは。
「酒じゃないか! 賢者、これ」
「本当はいけないんだけど、そんな状態じゃ剣を握れるとは思えないからね」
「助かる」
「これが終わったら、ちゃんと治療しようね」
「ああ」
酒瓶の蓋を外して、琥珀色の液体を勢いよく流し込む。
血液中にアルコールが巡る感覚が分かる。
手の震えは収まり、不調は全て消え去った。
これなら問題もなく剣を握れそうだ。
「僕たちは戦士入口で見守っているから」
「頑張ってね、ブレイブ」
二人が出て行った後、俺は深呼吸をしてから頭を掻き毟る。
ユーリアの顔が脳裏に過る。
「全く、面倒な女だ」
×××
決闘場は超満員だった。
それもそうだろう。
口コミでは王女を取り合っての決闘だ。
国民としてこれほど娯楽性のある催しはないだろう。
俺の前に立つロナルドはそれはそれは勇ましい姿をしていた。
握る木剣も真剣に見えてしまうほどの気迫だ。
「いざ尋常に勝負!!」
正々堂々。
そんな言葉がよく似合う斬り込みだ。
足を肩幅まで開き、相手の一撃を受ける構えを取る。
木材と木材が交わる音が会場に響き渡る
木剣をから手、腕へと衝撃が駆け抜けた。
「………………」
なかなかに重い一撃だ。
体重のかけ方をよく分かっている。
コイツの剣術指南役は相当なやり手だろう。
まあ、王子、王族の指南役なら当然か。
俺は強引に押し返して、距離を取る。
少しばかり体が硬い。
モンスターとの戦い方の感は取り戻しつつあるが、対人戦は久しぶりで感が戻ってない。
ロナルドはとにかく打ち込んでくる。
無茶苦茶ではなく、一太刀づつ丁寧だ。
俺は受け流し、かわしを繰り返して冷静にロナルドの太刀筋を観察する。
「どうした!? 打ってこないと僕を倒せないぞ!」
確かにコイツの言う通りだ。
大分、動きにも慣れてきたし攻勢に転じることにするか。
俺は斬撃を受け流し、一撃を叩き込む。
「うぐっ!?」
ロナルドは必死の形相で受け止めた。
勇者という呪いを帯びた一撃はかなり効くだろう。
しかし、ロナルドは怯むことなく果敢に攻めてきた。
流石は王子。
その志も誇り高い。
「………………」
そろそろ始めるか。
俺は一太刀を振るう。
ロナルドはちゃんと受け止める。
俺は距離を詰め、鍔迫り合いの形に持っていく。
互いの顔が近い。
よし、ここだ。
「おい、お前」
「なんっ、だ!?」
「好きな女居るだろ?」
ギョッと目を見開きロナルドは明らかに動揺する。
「なんで今そんなことを聞くんだ?」
「今していることが茶番だからだ。俺もお前も王女の手のひらの上だ」
「意味が理解できない!」
ロナルドは距離を取り、呼吸を整える。
この一撃で決めるつもりだ。
空気で分かる。
俺は冷静に剣を構える。
空気が静まる。
会場も次の攻防で決着がつくというのが分かったのだろう。
「はあああああああああ──!!!」
「………………」
叫び迫ってくるロナルド。
俺は高速移動し、木剣の一撃を加える。
結末なんて一瞬だ。
ロナルドは悶絶し、前のめりに倒れこんだ。
瞬間、会場が大きく揺れた。
観客の激しい歓声が決闘場を揺らしているのだ。
俺はうずくまっているロナルドに顔を近づけて、
「そのまま聞け。真相を話す──」




