第8話 『王女のわがまま』
王女の婚約破棄宣言により場内は大騒ぎとなっていた。
俺たちはユーリアの部屋にいる。
部屋の壁に寄りかかるエメリと賢者は妙にそわそわしている。
二人の様子など些細なことだ。
俺はベッドに腰掛けているユーリアを問いただしていた。
「どういうことだ?」
「さっき言ったのが真実だけど?」
「冗談はやめろ。お前が婚約破棄をしたい気持ちは分かる。政治の道具にされるのは不愉快だ。だが、反抗に俺を巻き込んだ理由を言え」
ユーリアは背伸びをしてから大きく溜息を吐いて、
「名前」
「は?」
「名前を教えてよ。私、貴方の名前知らないの」
「……ブレイブ」
「ブレイブって言うんだ。へぇ〜、カッコいい」
城内が大変だと言うのに、ユーリアは楽しそうだ。
「もう一度言う。俺を巻き込んだ理由を言え」
「なんか前会った時と雰囲気違うね。前はもっと明るくて楽しそうだったのに」
「………………」
「偶然知り合いがそこに居たから、それだけじゃダメ?」
「話にならない。エメリ、賢者行くぞ」
俺は二人を引き連れて部屋を後にする。
城内の廊下を冷や汗を流しながら走る臣下たちの姿があった。
王女一人の一言で大混乱だ。
下らない。
付き合いきれない。
そう思いながら城を出ようとすると、守衛に止められる。
「お三方を城から出すなと言われております」
「…………」
ここで揉めても面倒なことになるだけだ。
仕方なく軟禁を受け入れることにした。
×××
それから数日が経ち、事態が動き出した。
婚約破棄の件で相手国の王子──つまりはユーリアの元婚約相手が訪問してきたのだ。
当事者として俺は当然の如く呼び出された。
酒の匂いをさせるなということで今朝から飲んでないせいで気分が落ち着かない。
応接間にて、初めて相手側の王子を見た。
随分と男前で性格の良さそうな奴だ。
名はロナルドと言うようだ。
ロナルドは俺ではなく、隣に座って爪を眺めているユーリアに視線を向けて言う。
「突然の婚約破棄について納得のいく説明をして頂けませんか? ユーリア姫」
「正式な文書としてそちらに送ったはずでは?」
「僕は貴女の口から聞きたいのです!」
ロナルドが声を荒げても、ユーリアは一切彼の顔をみようとしない。
そのことに違和感を感じた。
「分かりましたわ。はっきり言わせて頂きます。貴方はブレイブ様には全てにおいて遠く及びません。特に剣技は天地の差がありましてよ。優秀な男性に心惹かれるのは女性として当然のことではなくて?」
「………………」
言っていることがめちゃくちゃだ。
どう見てもロナルドの方が優秀だろ。
顔も良く、優しそうな性格、教養もありそうだ。
さらには王子。
髪の毛ボサボサの髭面、酒浸りの俺と比べるのがそもそもの間違いだ。
王子はわなわなと震えている。
当然怒るだろう。
「やはり納得できません」
「そう言われましても……」
「なので、証明してもらいたい。僕より彼の方が優れていると」
ロナルドは勢いよく立ち上がり俺を睨みつける。
「僕は貴方に決闘を申し込む!」
×××
舞台は変わって決闘場。
俺は控え室に居るが、会場の歓声がうるさいほど聞こえてくる。
「なんか、大事になっちゃったわね」
「他人事みたいに言うな。お前が招いたことだろ」
俺はユーリアを睨みつけた。
悪い夢なら覚めて欲しいくらいだ。
まぁ、いい。
この決闘で俺が負ければ全てが元の鞘に収まる。
収まるんだが……。
「お前、どうしてそんな顔しているんだ?」
ずっとだ。
コイツはずっと苦しそうな、泣きそうな顔をしている。
一体何なんだ?
何がしたいんだ?
「巻き込んでしまって、ごめんなさい。本当はこんなつもりじゃなかった。でも、私はどうしても婚約破棄をしたいの」
「なぜ、そこまで拒絶する。ロナルドという王子はどうみてもいい奴じゃないか」
「これは私の単なるわがままなの」
そう言って、ユーリアは全てを話し出した。




