第7話 『謁見の間にて』
東の国に入ることが出来た俺たちだったが、流れで王城へ行くことになった。
元より魔王のことを国王に聞くつもりだったら好都合だ。
賢者が言うには水の都と言われているらしく、その名の恥ない街並みをしている。
街のあちこちに水路が通っており、流線状の造形をした建物が多い。
王城に向かう道中でふと馬車の窓から外を眺めると、どこまでも広がる海が見えた。
沖には小さな島があった。
「凄い綺麗なところだね!」
「綺麗だけじゃなくて料理も美味しいんだよ。特に魚介類が新鮮で最高なんだ」
「そうなの! 食べに行こうよ!」
大きな瞳を煌めかせながらエメリは詰め寄ってきた。
俺は手で顔を掴み押し戻す。
「用が済んだらな」
×××
王城に入り、謁見の間に通される。
ミロンは王の前で跪き、手にした小さな箱を開き、中のティアラを見せる。
王は感嘆の声を漏らす。
「おお、なんと素晴らしい出来栄えだ。やはり奴に頼んで正解だった」
側近の物がミロンから箱を受け取り、大事そうに持って謁見の間から立ち去る。
結婚式の日までどこかに慎重に保管されるのだろう。
王はミロンに感謝と報酬の話をひと通り終えた後、俺たちに意識を向けた。
「その者たちは?」
「私を助けてくれた恩人です。彼らが居なければティアラはきっと王の元へ届けられなかったはずです」
「そうだったのか。儂からも感謝を述べる」
感謝などどうでもいい。
それに俺は為政者の言葉──特に感謝などの言葉は決して信じていない。
信じて結果、俺は裏切られて地獄を見たのだから。
クソ、酒が飲みたくなってきた。
飲んではダメだろうか。
「王よ、聞きたいことがある」
「無礼な奴だ。が、今回は見逃してやろう。何が聞きたい」
「『渇望の──」
すると、俺の声を掻き消すように扉が開き、一人の女がズカズカと謁見の間に入ってきた。
長い髪は丁寧に編み込まれている。長い睫毛に縁取られた瞳に高い鼻、気品ある顔立ちをしている。
肢体を包むドレスは明らかに質の良い物だ。
どうやらコイツが今度結婚する王女らしい。
しかし、気のせいかもしれないが、コイツどこかで見たような……。
「おお、ユーリア。婚礼の儀の準備は進んでいるか?」
「お父様! 私は結婚などしないと申し上げています!」
「何を今更言う。相手側との話し合いはすでに済んでおる。この婚礼が結ばれれば我が国と相手側は、手を取り力を合わせることができるのだ」
つまり、政略結婚か。
自分の娘をも政治の道具にするのか。
ふざけた話だ。
反抗したくもなるは分かる。
ユーリアと呼ばれた王女は悔しそうに唇を噛みしめる。
ふと、ユーリアは俺の方を見て驚いたように目を見開いた。
それから寄ってきて俺の腕にいきなり抱きついた。
「お父様、私はこの方と結婚します」
「はぁ!?」
俺と国王が同時に素っ頓狂な声をあげる。
エメリと賢者も開いた口が塞がらないという表情だ。
「お前、結婚したくないからといって俺を使うな」
どうせなら賢者を使え。
アイツの方が顔も良い。
一目惚れだ何だと言った方が説得力が増すだろ。
ユーリアは俺を見てニヤリと笑う。
この笑い方、どこかで……それにユーリアという名前……。
「お父様、数年前に北の国を訪れた際に私が誘拐されたことを覚えていますか?」
「ああ、あれは痛ましい事件だった。それがどうしたのだ?」
「あの時、誘拐された私を助け、お父様の元に返してくれたのはこの方なのです」
「なっ、そんなみすぼらしい男が?」
余計なお世話だ。
というか、思い出したぞ。
俺が呪いを祝福と勘違いしていた時だ。
偶然にも誘拐の現場を目撃した俺は、正義感の赴くまま誘拐犯を撃退して女の子を助けた。
しばらく女の子のお守りをしてから巡回していた騎士に預けて、そのまま立ち去ったから素性は知らなかったが……まさか東の国の王女だったとは。
「野生的でカッコいいではありませんか。私は助けてもらったあの日に誓ったのです。次、あの方と会えたのならこの身を永遠に捧げようと」
「…………」
絶句する国王。
もちろん俺も絶句だ。
よくもまあその場でペラペラと嘘をつけるものだ。
「私は今の婚約を破棄し、この方と婚約します!」
面倒なことになった。
早く酒を飲みたくて仕方ない。




