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第6話 『ティアラと野盗』


 俺たちは東の国を目指していた。

 道中はモンスターに幾度も出くわし、戦闘を余儀無くされた。

 だが、そのおかげで──賢者のサポートも助けになった──鈍っていた体もだいぶ感を取り戻してきた。


「はあぁぁぁぁぁ!!」


 エメリがモンスターに手のひらを向けて力を込める。

 すると、手のひらに魔力が集中し、やがて球体を作り出す。

 球体は勢いよくモンスターに飛翔し、着弾した瞬間に爆発を引き起こした。

 爆発によって引き起こされた熱風が木々を揺らし、俺の頬を撫でた。

 黒煙を吹き上げながら消滅していくモンスター。

 エメリは俺と賢者に顔を向けて、自信満々な笑みを見せた。


「凄かったでしょ? 私だってあれくらいのモンスターなら倒せるんだから!」


 はしゃいでいるエメリを目端に捉えながら、俺は賢者に呟いた。


「あれは魔王が使っていた」

「そうだね。威力はかなり違うけど」

「魔王のは文字通り桁違いだ。比べるのが間違ってる」

「確かに。でも、ああして魔王が使っていた技を使っているのを見ると……記憶は本当にあるのかもしれないね」

「ああ」


 記憶の件は未だに納得はできていないが、エメリという少女に悪意がないというのは理解できた。

 彼女はどこまでも普通の少女だった。

 

×××



 山道を進んでいた時のこと。

 前を歩いていたエメリが思い出したように俺たちの方に体を向けて質問をしてきた。


「ねぇ、ブレイブたちの仲間の二人、男の人と魔法使いの人はどうしているの?」


 あまり触れて欲しくないことを突いてくれる。

 というかエメリは暇さえあれば聞いてくるのだ。

 その度にはぐらかしてきたが、そろそろ面倒になってきた。


「なぜ、そんなに気になる?」

「私と戦った人がその後どうなったか気になるのがそんなに変かな?」


 俺は髪を掻き毟り、酒を流し込んでから渋々アルマとヨゼフのことを言う。


「アイツらは魔王討伐の英雄として国民から絶大な信頼を得ている。アルマは宮廷魔術師の称号を賜り、ヨゼフは近衛騎士団の副団長として八面六臂の活躍を見せている。二人は結婚し、アルマは身籠っている……絵に描いたような幸せな人生を歩んでいる。……どうだ、これで満足か?」


 話している途中で俺との扱いの差を感じて気分が悪くなった。

 意外だったのはエメリも不愉快そうな表情をしていた。


「ふぅん、幸せそうで良かったじゃん」

「顔と言葉が合ってないぞ」

「自分を殺した相手の幸せを喜べるほど人間できてないよ」

「当然だな」


 話をしていると、茂みが突然激しく動き出す。

 俺たちは警戒心を高め、それぞれ武器を構える。

 勢いよく飛び出して来たのは太った男。

 俺と賢者は反射的に男に駆け寄り容体を確認する。

 服は砂埃や泥で汚れていて、怪我をしているのも見て取れた。


「賢者、回復魔法を」

「分かった」


 賢者が錫杖を振るうと、男の全身を柔らかな光が包み込む。

 少しすると、痛みが引いてきたのか男が喋り出す。


「……ありがとうございます」

「何があった?」


 男は息を切らしながら事の経緯を話し出した。


「実は近々、東の国の王女様の婚礼の儀があるんです。私は婚礼の儀に使用されるティアラを運んでいたんです……。その道中に野盗に襲われてしまって」


 もう少し聞くと、この男はミロンと言い、田舎に住んでいる腕の良い職人の弟子らしい。

 東の国の国王は自分の娘の門出を祝いたく、その職人にティアラの製作を依頼してた。


「そのティアラはどこにある?」

「乗っていた馬車の中に。ですが、それも野盗に奪われてしまいました。ああ……もう終わりだ……」


 絶望に膝をつくミロン。

 俺はエメリと賢者に顔を向ける。


「皆まで言わなくても良いよ」

「ブレイブってなんやかんや言っても優しいね」

「………………」


 心の内を見透かされて居心地が悪い。


「おい、野盗に襲われた場所に案内しろ」

「え?」

「ティアラを取り返すぞ」

「助けてくれるんですか?」


 涙目のミロンが希望の眼差しで俺たちを見つめる。


「そう言ってる。さっさと立って案内しろ」



×××



 襲撃現場に着き、状況を詳しく聞く。


「なるほど、山の中から急に出てきたんだな」

「はい」

「となると、どこかにアジトがあるはずだ」


 手分けして探すと、エメリがあっさりと見つけた。

 それは洞窟だ。

 正確にいうと洞窟の前に馬車といかにもガラの悪そうな奴が十人程度いた。


「どう攻める?」


 賢者が問う。


「正面突破で十分だろ」

「私も賛成」


 それを皮切りに俺たちは一斉に野盗共の前に躍り出た。

 野盗たちは驚きの声を上げつつ、腰にさしていたナイフを引き抜いた。


 めちゃくちゃに振り回されるナイフを目視してさばき、懐に潜り込んで拳を腹部に叩き込む。


 ぐったりした男の首根っこを掴み強引にぶん投げる。


 急に投擲された仲間に反応できずに野盗四人が直撃し倒れ込む。


 四方から新手。


「なんだテメェ!!」

「殺してやる!!」

「後悔してもしらねぇぞ!!」

「ズタズタにしてやるぞ!!」


 威勢は十分。

 が、その直後に三人は大きく仰け反り、一人は爆発した。

 原因は俺の後方。

 手のひらに次弾の魔力を集めているエメリと華麗に錫杖を操る賢者。


 その様子が過去の旅の一幕と重なり懐かしさを感じた。


 結果、大した苦労もなく野盗を制圧し、馬車を取り戻すことに成功した。


「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」


 ミロンが何度も頭を下げて感謝を述べる。


「気にするな。好きでやったことだ」

「それでも感謝が止まらないんです! 何かお礼をさせていただけないでしょうか?」


 凄まじい熱意に俺は困って二人に視線を向ける。

 すると賢者がミロンに言う。


「では、僕たちを貴方の馬車に乗せてくれませんか?」

「そんなことで良いのですか?」

「もちろん。僕たちも東の国に向かっていたので乗せてもらえると凄く助かります」



×××



 俺たちはミロンの馬車に乗せてもらえることになった。

 それからしばらく馬車に揺られ、俺たちは東の国に入った。

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