第5話 『再会の賢者』
「え!? え!? 誰このカッコいい人! ブレイブの知り合いなの!?」
エメリは黄色い声をあげて、賢者を指差す。
その顔は乙女そのものだ。
美丈夫というのは、そこに存在しているだけでトラブルの元だ。
賢者は苦笑いを浮かべてエメリに自己紹介をした。
「僕はインニェル・オールストレーム。前に彼と一緒に旅をしていたんだ」
「一緒に? そうなの?」
首を傾げるエメリ。
しかし、数秒後には満面の笑みで賢者の手を握る。
「私、エメリよ! よろしくね!」
「よろしくね、エメリちゃん」
エメリが居ると話したいことが話せない。
賢者には聞きたいことが山ほどあるんだ。
「賢者、少しいいか?」
「もちろん。僕も話したいことがあるんだ」
「お前はどこかで時間を潰していろ」
そう言って金貨を数枚渡す。
金色に輝く貨幣を見て、エメリは目を輝かせた。
「さっすが勇者! 太っ腹!」
「早く行け。絡まれたりするなよ」
「分かってる! インニェルさん、また後でね!」
上機嫌で街中へ消えて行くエメリの後ろ姿を見送ってから、賢者に顔を向けた。
「場所を変えるぞ」
×××
俺と賢者は酒場にやって来た。
テーブルに座り、俺は店員に酒を注文する。
「ずっと飲んでいるのかい? 身なりもだいぶ荒れているし、この数年で何があったのさ」
「お前が消えてから数年……俺は地獄の中に居たんだ。まともな精神じゃあ耐え切れなかった。だから酒にすがったんだよ」
運ばれて来た酒を一気に流し込む。
俺はたまらず国に、国民に、アルマにどんな仕打ちを受けたかを賢者に話始めてしまった。
違う。
俺はこんなことを話したかった訳じゃない。
だが、口が勝手に言葉を紡いでしまう。
ずっとこの苦痛を誰かに言いたかったが、言えなかった。
一方的な吐露に賢者は黙って聴いてくれた。
「僕が居なかった間にそんなことがあったんだね。そうとは知らずに……ごめん」
「お前は何も悪くない。それより一つ聞かせてくれ」
「なんでも聞いてよ」
「正直に答えてくれ。お前は俺のことを怖いと思うか?」
賢者は間髪入れずに、真っ直ぐな表情で、
「全然怖くないよ。今も昔も僕にとって君は苦楽を共にした大切な仲間だ」
そう言ってくれた。
何年か振りにかけられた温かい言葉に、胸の奥が熱くなった。
「ありがとう。本当に嬉しい」
「ううん。僕は素直な気持ちを伝えただけだよ」
これ以上は涙腺が決壊する恐れがあったから、話題を切り替えることにした。
「なぁ、今までどこに居たんだ?」
「実はある懸念があって、それを確かめるために世界を飛び回っていたんだ」
「一人でか? なんで俺や他の奴に相談しなかったんだ?」
賢者は少し気まずそうな表情で頬を掻く。
「君たちは魔王討伐という偉業を成し遂げた。だから、もう戦う必要は、命を危険に晒すようなことは無いと思ったんだ。それに僕は国の人間じゃない根無し草だから報酬も貰えなかっただろうし」
コイツは俺や他の奴を気遣って、たった一人で。
見た目だけじゃなくても中身も良いなんて、どこまでも完璧な奴だ。
人間じゃないんじゃないか?
「それで、お前の懸念ってのはなんだ?」
「僕はね、魔王が複数いるんじゃないかと考えていたんだ」
賢者の口から発せられた言葉に目を見開いた。
それはつい先程、俺とエメリが知った衝撃の事実だ。
「懸念は当たっていたよ。各国を渡り歩いて情報を集めた結果、魔王はまだ残っていた。どこにいるか、どんな力を持っているかは分からないけど」
「その件で俺も情報があるんだ」
俺は魔王の手記に書かれたことを賢者に話した。
賢者の顔は驚き、話が進むごとに険しくなっていく。
ひと通り話し終えると、賢者は水を一口含んでから言う。
「じゃあ、君は他の魔王に会いにいくんだね」
「ああ」
「敵対するようなことになったら?」
「その時は戦うしかないだろ。俺は魔王のことを知りたいんだ。邪魔する奴は誰であろうとも斬る」
俺の決意に賢者は微笑み、テーブルに立てかけてあった錫杖を手に取り立ち上がる。
「僕も同行させてもらうよ」
「お前が居てくれると助かる。でも、いいのか?」
「勇者にお供するのが賢者の本懐さ。それに他の魔王はどのみち対処しないとならないし」
ああ、コイツは本当に何も変わっていない。
それがたまらなく嬉しかった。
俺も立ち上がり、賢者を真っ直ぐ見る。
「頼む、賢者」
「任された、勇者」
俺たちは頷き、同時に笑った。
「エメリちゃんも加えて、新勇者パーティーだね」
「勇者はやめてくれ」
「君だって賢者って呼ぶじゃないか」
「お前は今も賢者だろ。俺はもう勇者じゃない」
「じゃあ、エメリちゃんに習ってブレイブって呼ぼうかな。でも、意味一緒だよね?」
「直接言われるよりはマシだ」
×××
その後、エメリと合流し、賢者も旅に同行することを伝えた。
エメリは目に見えて喜んでいた。
「それでさっきに質問に戻るけど、どの魔王に会いに行く?」
「賢者、ここから一番近い国はどこだ?」
「東の国かな」
「よし、次の目的地は東の国。──『渇望の魔王』に会いに行く」
こうして、俺は魔王を知るための旅の第一歩を踏み出した。




