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第4話 『魔王の手記』


 道中は思った通り、モンスターとの遭遇が多く戦闘を強いられた。

 しばらくの間、戦場から離れていたこともあり多少の苦戦はしたが、戦っているうちにこれまでに蓄積されていた経験値が覚醒していくのを感じた。

 とはいえ体は鉛を詰められるように重い。

 酒が抜けてないだろう。

 問題はない。


 しばらくして俺たちは魔王城に辿り着いた。

 城は初めてて訪れた時と比べて禍々しさはかなり減っていた。

 それは魔王が死んだから、俺の感覚が変わってしまったからなのかは分からない。


 城内には俺たちと戦った痕跡が生々しく残っていた。

 互いの命を賭けて戦った結果だ。

 そこで命を落としたモンスターたちに同情はしない。

 同情など冒涜でしかない。


 俺は特に探索することもなく、魔王が鎮座していた玉座の間を目指した。

 モンスターの気配はしないので何事もなく進む。

 後を付いてくるエメリは感慨深そうに至るところに視線を向けていた。


「記憶で見た通り。実際に見ると迫力が違うね」

「一つ聞かせろ。魔王の記憶っていうのはどの程度まであるんだ?」

「はっきりと分かるのは貴方たちと戦った所から。それ以前は断片的でイマイチ分からない」

「そうか」


 そもそも、なぜコイツが魔王の記憶を持っているのかが疑問だ。

 前世の記憶があって生まれてきた子どもがいるというのは聞いたことがある。

 しかし、コイツはパッと見た感じ十四〜五歳だ。

 魔王が死んだ時には既に生まれている。

 後天的に他者の記憶が追加されるなど聞いたことがない。

 やはり、虚言なのではという疑惑が、俺の頭から離れない。



×××



 玉座の間にやって来た。

 再び、ここに立つとは思わなかった。

 激闘の痕跡は埃をかぶりながらも確かに残っている。

 瞳を閉じれば鮮明に思い出せる。

 魔王との激闘を。

 あの瞬間だけは魂が激しく燃えた。


 エメリの方を見ると、彼女も目を閉じてこの場の空気を全身で感じていた。

 それから少しして、エメリは俺を見て笑う。


「ブレイブとの戦い、最高に楽しかった」

「自分のことのように言うな」

「だって記憶としてあるんだもん」


 知らない奴に魔王の感情を代弁されるのは言い難いものがある。

 そもそも見た目が違うから違和感しかない。

 魔王のように濡羽色の髪でもなければ、蒼い瞳でもない。


 肩まで伸びた綺麗な髪に大きな目。スッと通った鼻筋に桃色の唇が小さい顔に綺麗に収まっている。

 一般的に見て美少女と言えるが……。


「それはそうと早く手記を取りに行こうよ」

「ああ」


 玉座を眺めたまま俺は生返事をする。

 魔王は一体何を思って座っていたのだろうか。

 いくら考えても分からない。

 これからの旅で少しは理解できるようになれれば──。


「ねぇ、早く! 言っておくけど手記以外に魔王のことが分かるものは何もないよ!」

「分かっている」


 エメリの案内で城内を進み始める。

 そして辿り着いたのはとある一室だ。

 最低限の家具、本棚には難しいそうな書物が詰め込まれていた。


「魔王の部屋、か」

「そう。で、問題の手記はここに……」


 エメリは机の二段目の引き出しに手を伸ばす。

 だが、引き出しは開かない。


「鍵がかかっているみたい。壊してよ」


 多少、気が引けたが今更ここを使うものはいないだろう。

 俺は引き出しを壊す。

 引き出しの中にはエメリが言っていたように手記が確かにあった。

 魔王がこの世にいた証だ。


「先に見る?」

「俺は後でいい」

「じゃあ、お先に」


 手記を開き、内容を確認し始めるエメリ。

 めくる速度は上がり、エメリの顔が徐々に険しくなっていく。


「何これ?」

「どうした?」


 エメリは手記を俺に見せつけた。

 驚いて、手記を引ったくりページをくまなく確認した。

 手記は至る所が破かれていて、まともに読める部分はほとんどなかった。


「どうなっているんだ?」

「私にも分からないよ!」


 感じからみて人為的に破かれているのは明白だ。

 魔王が自ら破ったのか?

 事情は分からないが読める部分を確認する。

 そこで、俺は驚愕の事実に絶句した。


『魔王は私の他にも三人存在する。南の国を支配しているのは『破滅の魔王』。東の国を支配しているのは『渇望の魔王』。そして、西の国を支配しているのは『終焉の魔王』。私は彼らと交渉を重ねた。しかし、彼らは────』


「魔王が三人いるだと?」


 そんな話、聞いたことがなかった。

 てっきり魔王というのは単一の存在で、世界を支配していると思っていた。

 国は他国とも交流はあったはずだ。

 当然、魔王のことも情報共有があっただろう。

 なのに、なぜ魔王が複数いるということは知られていないんだ?


「情報統制でもされていたのか?」


 考えても答えは出てこなかった。



×××



 収穫は破れた手記のみ。

 それを片手に俺たちは魔王城を出て、街に戻った。


「これからどうするの?」

「他の魔王に会いに行く」


 俺は数時間ぶりに酒の喉に流し込み言う。

 魔王のことを知る手がかりは、現状三人の魔王しかない。


「そう言うと思った。まずはどの魔王から行くの?」

「そうだな……」


 酒を飲みながら考えていると、急に誰かに酒瓶を取り上げられてしまう。

 人の酒を勝手に取るなんて、とんだクソ野郎だ。

 俺は殴りかかるつもりで振り返ると──。


「あんまり飲みすぎると体を壊すよ」

「お前……」


 クソ野郎は優しい笑みを浮かべて、俺を注意した。

 その顔を見た瞬間に懐かしさが溢れた。


 俺の前に居たのは、忽然と姿を消したはずの賢者だった。

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