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第3話 『新たな仲間』


 俺はまず始めに魔王城へ向かうことにした。

 魔王を知ると思い至り、最初に浮かんだのがそこだった。

 正確に言うとそこ以外思い浮かばなかった。

 俺は魔王のことを何も知らない。


 世界に闇をもたらす者。

 悪の権化。

 そんなことばかり聞かされていた。

 だから、魔王──彼女のことは何一つ知らない。


 俺は多少の休憩を挟みながら昼夜問わず駆けた。

 木漏れ日が差し込む森。

 薄暗い洞窟。

 神秘的な雰囲気を纏う渓谷。

 自然の脅威を具現化したような巨大な山。

 荒れ果てた地。


 それは、魔王討伐のために俺たちが一年以上の時間をかけて踏破してきた道のり。

 どこにも思い出が転がっている。

 その度にアルマとヨゼフの顔が脳裏に浮かぶ。

 頭を大きく振って二人の顔を弾き出す。



×××



 俺は河原で休憩をしていた。

 川の冷たい水で顔を洗い、ちょうどいい大きさの岩に腰掛ける。

 道中の町で買った酒を喉に流し込む。

 今までは家の中で飲んでいたから味がないと思っていたが、自然の中で飲んでも大して変わらなかった。

 だが、そんなのはどうでもいい。

 もう美味い不味いで飲んでいるわけじゃない。

 ただ飲んでいないとやってられないだけだ。


 川の流れを眺めていると、なんの関連性もないがふと賢者のことを思い出した。


「アイツはどこへ消えたんだ?」


 魔王討伐をし終えて、国に帰還した直後に賢者は忽然と姿を消した。

 誰もその行方を知らない。


「………………」


 アイツはどうだったのだろう。

 俺のことを怖がっただろうか。



×××



 再び道中を駆け抜ける。

 こうも簡単な道のりだったかと疑問になる。

 装備品も魔王討伐の時とは比べ物もならないほど軽装だ。

 服もズボンもブーツも市販品でなんの防御力もない。

 武器となる剣も多少値は張るが、市販で買える程度の物だ。


 魔王討伐の時の装備は全て国に没収されてしまった。

 全くおかしな話だ。

 曲がりながりなりにも世界を救った功労者にこの仕打ち。

 ふざけやがって。

 あの国は腐ってる。


 装備の優劣はともかく、俺はかなりのペースで進んでいた。

 全盛期と比べれば酷い有様だが、かけられた呪いは今も健全のようだ。

 仲間も居ないから全力を出せる。

 数年前はどうだったか分からないが、今の俺はたった数十日で魔王城へ行けるようになっていた。

 その事実は悲しくもあった。



×××



 数日後。

 俺は魔王城から最も近い街に来ていた。

 近いといっても距離はかなりある。

 つまり、最後の休憩地点ということだ。

 

 だが、俺はゆっくり休むつもりはない。

 立ち寄ったのも酒を買うためだ。

 補充出来た酒を撫でながら、街の入り口に向かおうとしていると悲鳴が聞こえてきた。


「やめて! 離して!」


 声からして若い女だろう。

 他に聞こえる声からして男が三人。

 大方、邪険にされた男どもが逆上したといったところだろう。


「………………」


 このまま無視して先を急ぐこともできるだろう。

 だが、俺にはそれができなかった。

 どうやら酒浸りのクソ野郎になっても、辛うじて勇者の心は残っていたようだ。


 声の方向へ向かう。

 そこは路地裏だ。

 やはり、予想通り若い女と男三人が揉めていた。


「おい。その辺にしておけ」


 俺が忠告すると、男三人が一斉にガンを飛ばしてきた。


「なんだてめぇ?」

「見せもんじゃねぇんだよ」

「とっと失せないと痛い目に合うぜ?」


 どこにでもこういう奴はいるんだな。

 まぁ、俺も似たようなもんか。


 俺は瞬足で男の背後に移動し、手刀を叩き込む。

 男が地面に倒れるよりも前に残りの二人の鳩尾に拳をめり込ませる。

 気絶する男と悶絶する男を二人をちらりと見た後に、若い女に視線を向けた。


「次からは気を付けろ」


 俺は路地裏から出る。

 街の入り口を目指していると、先ほどの若い女が後を追ってきた。


「ねぇ、待って! 待ってよ!」

「なんだ?」


 面倒臭さを全面に押し出して、俺は振り向いた。

 

「助けてくれてありがとう」

「それだけか? 俺は先を急いでいるんだ」


 行こうとする俺を、若い女が引き止める。


「魔王城に行こうとしているんでしょ?」

「なぜ分かる?」


 図星を突かれて反射的に質問してしまう。

 次に若い女が発した言葉に俺は驚いた。


「私を殺した勇者は貴方ね。お酒臭いし、髪もボサボサで髭面で印象は違うけど絶対にそう。私は貴方が来るのをずっと待っていたの」


 私、だと?


「お前は何を言っているんだ?」


 若い女は真剣な面持ちで言う。


「信じてもらえるか分からないけど、私には魔王と呼ばれていた人の記憶があるの」

「からかっているのか? だとしたら消えろ」


 睨みつけるが、若い女は怯むことなく続ける。


「貴方の仲間……血塗れになりながら私の頭をカチ割った人と魔法使いの女の人、あの人たちは今どうしているの?」

「なっ」


 ヨゼフが魔王の頭に一撃を叩き込んだのを知っているのは、あの場にいた者だけだ。

 それをなぜ知っている?


「奴に聞いたのか?」

「奴って? 私は記憶にあることを言っているだけよ」

「…………」

「それより、魔王城に行くんでしょ。一緒について行っていい?」

「ふざけるな。誰がお前のようなガキを連れていくか」


 それに今、女と行動するとアルマのことを思い出してしまい、心がささくれ立ってしまう。

 情けない限りだ。


 ムッとして若い女は俺に詰め寄った。

 

「魔王城に、魔王の手記があるの。私はそれがどうしても欲しいの」

「手記……」

「私には分かるわ。貴方は魔王がどういう人か知りたくて魔王城に向かうんでしょ? 私も同じ。急に湧いてきたこの記憶の持ち主がどういう人だったのか知りたいの。でも、私に魔王城までいく力はないから」

「………………」


 クソッ、そんな悲しそうな顔をしないでくれ。

 今の俺でも一人くらいなら守ることはできる。

 目的も俺と似ている。

 親近感が湧かないといったら嘘になる。

 しかし、コイツは俺を騙している可能性もある。

 魔王を殺した俺に復讐しようとしている魔王の部下かもしれない。


 色々と考えを巡らせるが答えは見つからない。

 仮に敵だとしたら、寝首を掻かれる前に斬ればいい。

 

「ついて来たければ勝手に来い」

「本当に! ありがとう!」


 若い女はパッと笑顔になり、俺の真横につく。


「私、エメリっていうの。貴方は?」

「好きなように呼べ」

「何それ? 名前教えてくれないの?」

「………………」

「勇者って呼ぶのも変だし、じゃあブレイブって呼ぶね」

「……好きにしろ」


 俺に、暫定的だが新たな仲間ができた。


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