第26話 『破滅の魔王』
──女が嫌いだ。
オレ様の人生において女という存在は大きな障害でしかなかった。
一番古い記憶。
クソみてぇなボロ家でオレ様は部屋の隅に膝を抱えてうずくまっていた。
耳にこべりついて離れねぇのは母親らしい女と知らねぇ男の怒鳴り声だ。
女は男を取っ替え引っ替え、酒に溺れ、ヤク漬けのクソ野郎だった。
事あるごとにオレ様は暴力を受けていた。
そん時のオレ様は何もできずにただ時が経つのを延々と待っていただけだった。
ある日、オレ様は酒瓶で女を殴った。
すると、女は怯えたような目でオレ様を見つめた。
そん時に理解しちまった。
力だ。
力さえあれば何でもできると。
オレ様は女を殺した。
×××
オレ様は衝動に任せて喧嘩に明け暮れた。
自然と強くなり、周りでオレ様に逆らう奴は一人もいなくなった。
けどよぉ、足りねぇ。
もっと力が欲しかった。
オレ様は街を飛び出して、強そうな奴に片っ端から喧嘩を売った。
負けたこともあった。
でも、次戦った時は必ず殺してやった。
ある日、クソ強ぇ女と出会った。
オレ様は完膚なきまでに倒されて、これまでの全てを否定された。
女は勇者だった。
ふざけんじゃねぇ。
勇者だか何だか知らねぇけど、オレ様は女に勝つために全てを注いだ。
そして、オレ様は女を殺した。
『ありがとう……。出来れば、君は……』
最後に女がなんて言ったかははっきりとは覚えてねぇ。
戦利品として、女のネックレスを奪ってやった。
×××
勇者とかほざく女を殺したオレ様は、それまでと変わらずに暴れまくった。
そして、いつの間にか『魔王』と呼ばれるようになった。
魔王。
その響きにオレ様は喜びを覚えた。
どいつもこいつもオレ様にビビっている。
最高だぜ。
何でもできると思っていたオレ様は、国王をサクッとブッ殺して自分が生まれた国を支配してやった。
けどよ、その頃からオレ様は自分の中にぽっかりと空いた穴があることに気付いた。
理由は単純だ。
オレ様より強ぇ、奴が居ねぇ。
オレ様は知らなかった。
強ぇ奴が居ねぇのがこんなにも退屈だってことを。
×××
ある日、オレ様の元に女が来た。
そいつは自らを『強欲の魔王』とか名乗っていた。
心が久しく踊ったのを感じだぜ。
女が何か言ってんのを無視して、殺しにかかった。
結果はクソだった。
あの女は魔法ばかりを打ちやがって、殴り合いを拒絶しやがった。
オレ様が飽きて殺すのを止めると、女は質問してきた。
──そんなに戦いが好きか?
当たり前だ。
強ぇ奴と殺しあっている瞬間だけが、オレ様の生き甲斐だ。
すると、女は不敵な笑みを浮かべた。
──破滅の魔王、貴様が望む強者は近いうちに現れる。私を殺すであろう最強の勇者がな。
×××
オレ様は我に帰える。
眼前に居るのは血塗れの酒臭ぇ野郎だ。
っかしいぜ、体がヤケに重ぇ。
「……チッ」
オレ様は気付いた。
心臓が止まってやがる。
つまりだ。
オレ様は負けたってことだ。
不思議な気持ちだぜ。
こんなにもせいせいした気持ちはいつ以来だ?
オレ様は強欲の魔王と同じ雰囲気を感じる女に目を向けた。
それからネックレスを盗みやがった女に脳裏に思い浮かべる。
「どぉやら、テメェらはオレ様が付けていたネックレスに秘密があると思ってみたいだなぁ」
「ああ」
「バカがぁ、アレは単なるネックレスだ。あんな物盗んだところで意味はねぇんだよ」
「………………」
そう、単なるネックレスだ。
それなのにネックレスには力が宿っていた気がした。
まさか、あの女が……?
「はっ! バカバカしい……」
オレ様は勇者を見る。
「テメェ、強ぇな」
膝から崩れ落ちた。
もう、指一本動かせねぇ。
クソみてぇに青い空だ。
『もう、いいの?』
勇者を名乗ってた女の声が聞こえた。
「あぁ……十分だ……」
女の……アイツの手が差し伸べられた。
オレ様はその手に向かって手を────。




