第23話 『魔王という存在』
全速力で宿に戻ってきた。
賢者は錫杖を支えにして何度も深呼吸を繰り返す。
俺はエメリを降ろしてから、いつの間にか背中にくっついていたシーフに言う。
「さっさと降りろ」
「はいはーい」
にしてもいつからくっついていたんだ?
部屋に入るまで、全く気が付かなかった。
俺はテーブルに置いておいた不味い酒を一気に流し込んでから、エメリに視線を向けた。
「一体なにを考えている?」
「ごめんなさい……正直、私も何であんなことしたのかよく分かってないの」
とても嘘を言っているようには思えなかった。
エメリ自身も先の行動に疑問を浮かべているようだ。
魔王の記憶に引っ張られたのか?
しかし、あの魔王の印象からして直情的なことはしなさそうだが。
もしかして、破滅の魔王が無意識撒き散らしている魔力のせいか?
周辺モンスターの凶暴性、国民の暴徒化、そしてエメリの不可解な行動。
全て奴の魔力が原因だとしたら一応の辻褄は合う。
「エメリちゃんの行動は軽率だったかもしれないけど、得られた情報は大きいよ」
賢者の言う通りだ。
エメリの魔弾被弾によるダメージは確かに入っていた。
それはつまり。
「奴には攻撃が通る」
「倒せる可能性はあるってことさ」
完全なる無敵でないと分かったのは大きい。
しかし、問題も出てきた。
その問題点をシーフが指摘する。
「本当にネックレスが無敵になるアイテムなんすか?」
「分からん。だが、アレ以外にそれらしいのが見当たらないんだ」
「もし違ったら?」
「その時はその時だ」
「行き当たりばったりってすか。良いっすね、面白くなってきたっすよ」
賢者が質問してきた。
「武器はどうする?」
前の戦闘で折れてしまった剣の代わりは見つかってない。
腹立たしいことに、売られているのがどれもこれも粗悪品で使えたものではないのだ。
俺は拳を握りしめる。
「ある意味、アイツとの戦いに相応しいかもしれん」
それから話し合いの結果、明日攻撃を仕掛けることになった。
×××
その日の夜。
俺が窓から見える景色を眺めながら酒を飲んでいるとエメリが話しかけてきた。
「ねぇ、ブレイブ」
「どうした?」
ベッドに座り直したエメリは言葉を選ぶかのようにゆっくりと口を開いた。
「魔王って、何なのかな?」
「………………」
「私の中での魔王はね、冷酷で残酷、世界滅亡を本気で願っている最低最悪の存在。でも、記憶に触れて、渇望の魔王や破滅の魔王を直に見たら違うんじゃないかって」
エメリは曖昧な表情を浮かべた。
「もちろん悪いことはしてるけど、その根底にあるのって人間らしさな気がするの。だって、生まれつき魔王だった人なんて聞いたことないもん。みんな何かを抱えて魔王になった……そんな気がするの」
それは俺も薄々と感じていた。
賢者は言っていた。
魔王は元人間だと。
ならば、渇望の魔王、破滅の魔王、この先出会うだろう終焉の魔王──その全員が元人間という可能性は十分にある。
人間の線引きを超えてしまい魔王になってしまった者。
そこにどんな共通点があるのかは分からない。
「つまり、お前は何を言いたいんだ?」
「魔王を倒すことって、実は魔王を救ってるんだと思うの。……だからね、明日は絶対に勝とうね」
「ああ」
俺は拳に力を込めて、頷いた。




