第20話 『盗人猛々しい』
俺と賢者は荒廃した王都を散策していた。
エメリは体調不良に加えて、俺の看病による疲労でダウンしてしまったので宿で寝かしている。
一人にするのは不安だったが、賢者が防御魔法を展開してくれたのでひとまずは安心だろう。
俺はさっき買った酒を飲む。
思わず顔をしかめてしまうほどに不味い。
「なんだこれは? 泥水と変わらない」
「あのさ、病み上がりなのに酒を飲もうとするのはどうかと思うよ」
「意識が無かった間、一滴も飲んでないんだ。少しくらい良いだろ」
「止める気ないでしょ?」
賢者の問いを無視して、話題を変えた。
「しかし、エメリの奴はとんでもないことを思いつくな」
話をはぐらかされたことに賢者は溜め息を吐きつつ、話題に乗っかってきた。
「まさか、盗んでもらうなんてね。僕はどう壊すしか考えてなかったのに」
「俺もだ。アイツ、将来は悪女になりそうだな」
現状、破滅の魔王が身につけているネックレスを破壊することは難しい。
なので、エメリの作戦を行うために俺と賢者は盗みの腕がいい奴を探しているのだ。
「前は捕まえるために探してたのに、今は正反対だね」
「こっちの方が気楽だ」
「それは僕も同感」
俺たちは聞き込みを行った。
最初は誰も聞く耳を持たないが、金貨をチラつかせれば噴水のように情報をベラベラと話した。
集めた情報を精査したところ、スラム街に住んでいる少女が一番有力だと分かった。
「スラム街か」
「正直、王都全域がスラム化してるんだが……」
俺と賢者は手分けして、スラム街を探すことに。
見つけたのは実に五日後のことだった。
×××
スラム街といっても、他と大差がない。
強いて言えば治安がかなり悪い。
スラム街に入ってからすでに三回も襲われている。
襲撃には慣れているから対処は問題ない。
「た、助けてください。何でもしますから……」
俺はボコボコにした男の胸ぐらを掴んで質問する。
「ここいらで盗みを生業にしている女がいると聞いた。知っていたらどこに居るか話せ」
「えっと……この先を真っ直ぐに行って、右に曲がったところにあるボロ小屋がソイツの家だったはずです」
「そうか」
俺と賢者は聞き出した場所へ向かう。
「なんか、ブレイブもスラム化してない?」
「元からこんなもんだろ」
「うーん、そうかも」
ボコした奴の言った通り、ボロ小屋は確かにあった。
俺が住んでいたボロ小屋と良い勝負だ。
だが、ボロ小屋に入る必要は無さそうだ。
「あーたたちがアッシを探している二人組っすか?」
ボロ小屋の外に置いてあった、ボロボロのソファー。
おそらく捨ててあったのを拾ってきたのだろう。
そこに一人の少女があぐらをかいて座っていた。
歳はエメリと同じか歳下くらいだ。
髪を適当にまとめ上げて、華奢で細く、身軽な格好をしていた。
口調は明るく、無邪気な印象を受けた。
「ああ」
「ふーん、おじさんとイケメンがアッシに何の用っすか?」
少女と聞いていた時から思っていたが、こんな子どもを巻き込むのは気が引ける。
チラリと賢者の方を見ると、難しい顔をしている。
どうやら俺と同じ考えのようだ。
「いや、遠慮しておく」
「えー!? なんすかそれ! 噂聞いてからずっと気になってしょうがなかったのに! 何用かくらい教えてくれてもバチは当たんねっすよ!」
詰め寄ってくる少女。
あまりにもしつこく来るものだから、俺は理由を述べた。
「──という訳だ」
「うへぇ、思ったよりも重い話っすね」
「ああ、だから……」
「でも、いいっすよ。その話乗りやした」
どうしてそうなる?
「探してた僕たちがいうのもなんだけど、あまりにも危険過ぎる」
諭す賢者。
少女は頭の後ろで腕を組んで、ニヤリと笑う。
「危険ってことは、その分の報酬は期待していいんすよね?」
「え?」
「言っておきやすが、アッシは破滅の魔王が許せないから乗る訳じゃねーっす。金っすよ。金さえ積んでくれれば何だって盗ってやりやすよ」
あまりにも自信満々にいう少女に、俺はつい口調を荒くして言ってしまう。
「そこら辺の奴から財布を盗むのとは訳が違うんだ。相手は魔王だ。些細なミスが死に直結するんだ。お前はそれを理解していない」
俺が馬鹿だった。
魔王戦に他人を巻き込むこと自体が間違っている。
あの戦いにおいて命など紙切れにも及ばない。
すると、少女は光の灯ってない瞳で俺を睨みつける。
「オジサン、金は命より重いの知らないんすか? 大金を手に入れるためなら命すら賭け金に変わらねーっす。スラム街の常識っすよ」
「………………」
「それに」
少女は笑って、金貨を指で弾く。
もう片方の手には俺と賢者の財布を持っていた。
「アッシに盗めない物はありゃしません」
いつの間に盗んだ?
俺や賢者すら気付けない腕前を持っているのかコイツは?
これは、もしかするのでは?
「ブレイブ」
「ああ」
俺は少女に言う。
「いくら出せばいい?」
「おっ、アッシの実力分かってくれたんだ。そうっすね、相手は魔王と来たなら、それ相応の報酬をちょうだいしやすぜ」
「なら、渇望の魔王討伐した時の報酬金と俺の全財産でどうだ?」
ザッと計算した金額を少女に提示する。
少女は大きく目を見開く。
「うっそ……こんな大金、本当にいいんすか?」
「成功すればな」
「やるやる! 必ず成功させてやりやすよ!」
凄まじいやる気に満ちた瞳。
頭の中には金のことしかないのは火を見るよりも明らかだ。
俺と賢者は苦笑いをする。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったね」
「ん? んー、じゃあ、シーフって呼んでくだせえ」
「シーフって盗賊って……」
「本名隠してる方がミステリアスでカッコいいじゃないっすか?」
「あー、うん、そうかもね」
「同意するな」
新たな仲間として、シーフが加わった。




