第16話 『荒廃の都』
南の国は酷い有様だった。
最初に辿り着いた町は荒れ果ており、町として殆ど機能していなかった。
次の町は酷い飢饉に見舞われていた。
さらに次の町は国民が暴徒と化し、絶え間なく抗争が起こっていた。
どの町もそうだった。
行くところ全てが荒んだ状態で、精神がすり減ってくのを感じた。
流石に王都は大丈夫だと勝手に思っていた。
だが、それは単なる俺の希望的観測だったに過ぎなかった。
王都の治安が最も悪かったのだ。
建物は朽ち果て、死体が当たり前のように転がっている。
呼吸をするのすら億劫になる程に空気が澱んでいた。
「どうなっているんだ?」
「おかしい。僕が前に来た時はこんな風じゃなかった」
不思議がる俺と賢者。
先程から無言のエメリに視線を向ける。
俺は驚いた。
エメリは真っ青な顔をして、今にも倒れそうだった。
「おい、大丈夫か?」
「ほっといて」
肩に置こうとしていた手をエメリに払われてしまう。
何十日と経っているのにエメリの機嫌は悪いままだった。
「つまらん意地を張ってる場合か。賢者、医者を探すぞ」
「待って……これは具合が悪い訳じゃないの」
「どういうことだ?」
エメリは俺ではなく賢者に対して言う。
「『渇望の魔王』の時と同じ……あの時は船酔いのせいだと思っていたけど違う。きっと近くに『破壊の魔王』が居る」
「もしかしたら他の魔王の魔力に反応して、エメリちゃんの中にある魔王の記憶が呼び覚まされているのかもしれないね」
「………………」
もし、それが本当なら魔王はなぜそんな仕掛けを施したんだ?
エメリでは到底、他の魔王に辿り着くのは難しい。
まさか、俺がエメリと行動するのを予測していたのか?
そして、俺とエメリが他の魔王に辿り着くことを……。
一体、魔王は何をしたかったんだ?
魔王の目的は不明だが、それよりも先のエメリの言葉が重要だった。
「待て、近くに破滅の魔王がいるだと? この王都に?」
「だとしたらどこに……まさか……」
俺と賢者は同じ方向を見つめる。
南の国は『破滅の魔王』に支配されている──。
×××
俺と賢者は手分けして住人から話を聞いた。
なんでも、数年前にクーデターが起こり当時の政権は打倒。
新たに就任した王が圧政を敷き、現状に至っているらしい。
その王は十中八九、破滅の魔王だろう。
俺たちは王城へと来ていた。
本当はエメリを連れて来るつもりはなかったが、ここにはまともな宿屋はない。
加えて治安も悪い。
俺と賢者といるのが一番安全だと判断して連れて来たのだ。
王城は異様な雰囲気をまとっていた。
まず守衛が居ない。
それに城内には至る所に死体や骸骨が転がっている。
城内に漂う殺気。
俺たちに向けられたものではない。
ただ、撒き散らしているだけだ。
ある程度の耐性がない人間はこの殺気だけで逃げ帰るだろう。
「眷属は配置してないみたいだね」
「眷属を配置しないのが普通なんじゃないか? 魔王が変わり者だったんだろ」
魔王は侵入者の力を徹底的に削るように眷属を配置していた。
その戦略は敵ながら見事だった。
×××
俺たちは殺気が最も濃く放たれている玉座の間へ来ていた。
賢者とアイコンタクトをして、扉を開く。
玉座の間に入った瞬間に、耳をつんざくような笑い声が聞こえた。
「来たぜ! 来たぜ! 来たぜぇぇぇぇ────!!!」
玉座に足を置き、手を大きく広げる青年。
短く切った髪。
吊り上がった瞳は蛇のように鋭い。
鍛え抜かれた体から放たれるのは悍ましい程の殺気と魔力。
ふと、目に入ったネックレスに妙な違和感を覚えた。
それだけが青年の雰囲気にそぐわないのだ。
ともかく、俺は話しかける。
「お前は破滅の魔王だな」
「ハッ! その呼び方、久しぶりでしっくりこねぇなぁ! そうだ! オレ様は破滅の魔王だ! そして、南の国の国王! つまりだ! オレ様は二つの王だ!!!」
随分とうるさい奴だな。
俺はエメリを背負っている賢者を後ろに下がらせる。
不意打ちの可能性も考えて、剣を握りしめて警戒心を最大限に引き上げる。
「一つ聞きたい。女の魔王についてだ」
「あ゛ぁ!? 今、女の魔王っつたか!?」
「ああ」
破滅の魔王の殺意と魔力が一気に膨れ上がる。
引き裂いたような笑みに総毛立つ。
「テメェを待ってたぜぇぇぇぇ────!!! 勇者ぁぁぁぁぁぁ────!!!」
破滅の魔王が襲いかかって来た。




