第15話 『南の国へ』
俺たちは南の国へ向かっている。
その道は困難を極めた。
東の国の領土まではそこまで厳しいものではなかった。
だが、南の国の領土に入った途端にモンスターが強くなったのだ。
加えて好戦的だ。
奴らは一瞬でも視界に俺たちが入ればたちまち襲ってくる。
今は荒野を進んでいる。
「やあぁぁぁぁ!」
エメリが放った魔弾がモンスターに着弾し、周辺のモンスターも巻き込み大爆発を引き起こす。
黒煙が収まると、残っているのは灰だけだ。
「やっぱり凄いね」
「ああ」
魔弾は攻撃範囲が広いうえに高火力だ。
ただ、難点は魔弾を作り出すのがありえないくらい難しい。
魔力を一定に放出し、圧縮するのには緻密なコントロールが必要になる。
俺も賢者も挑戦してみたが全くできなかった。
その様子を見ていたエメリの勝ち誇った顔は未だに脳裏に残っている。
モンスターを倒し終えたエメリは額に滲んだ汗を拭い、息をつく。
賢者は座り込み呼吸を整えている。
俺は酒を一気に流し込む。
疲れた体にアルコールが染み渡る。
「やっぱりブレイブは凄いね」
「何がだ」
「連戦続きだったのに全然余裕そうじゃん。やっぱり勇者だから?」
「勇者はやめろ」
凶暴かつ強力なモンスターのせいで、思うように進むことができずにあっという間に夜になってしまった。
仕方なく野宿をすることにした。
×××
俺は丁度いい大きさの石に座り、焚き火の番をしている。
モンスター避けにもなる火を絶やさないように、拾い集めた木を放り投げる。
とはいえ、ここのモンスター相手に火だけというのはいささか不安を覚えた。
それは、俺だけではなかったようで、賢者が結界を張ってくれた。
加えて俺は寝ずの番をするつもりだ。
流石にこれだけやればエメリは安全に寝ることができるだろう。
「こうしているとあの旅を思い出すね」
揺れる火を眺めながら賢者が呟く。
その手にはコップが握られている。
「ああ」
「あの時も楽しかった。みんなで火を囲んで遅くまで語ったよね」
俺は酒瓶を眺めながら言う。
「そんなこともあったな」
思い出したところで白黒の記憶だ。
もはや何の感情も湧いてこない。
「ねぇ、ブレイブ」
寝ていたと思っていたエメリが毛布にくるまったままで上体を起こす。
表情は若干険しい。
「私を殺した後に何があったの?」
「お前には関係無い話だ」
「大体おかしいよ。アルマって人は宮廷魔術師、ヨゼフって人は近衛騎士団の副団長なんでしょ。だったらブレイブは二人以上に評価を受けるのが当然じゃん。なのに何で髪の毛ボサボサ髭ボーボーの飲んだくれになってるの?」
「随分な言いようだな」
苦笑いする。
その通りだから怒る気すら起こらない。
しかし、エメリは毎度痛いところを突いてくる。
「ブレイブがそんな風になったのは私のせいなの?」
罪悪感を滲ませた表情。
俺は顔をしかめそうになるのを必死で抑える。
「お前は……魔王は関係ない」
「だったら理由を教えてよ」
「……もう寝ろ」
「ブレイブって、私には何も話してくれない」
はぐらかす俺を睨みつけてから、エメリは横になり毛布を頭からかぶる。
「ここに居たのが魔王だったら話してたくせに」
毛布の中から聞こえた言葉に胸が痛んだ。
多分、魔王相手になら話していただろう。
エメリに話したくない理由は酷く個人的なものだ。
賢者がコップを俺に差し出す。
それを受け取ると、賢者はニヤリとした笑みを浮かべた。
「なんだ?」
「昔と変わってないところもあるんだと思って」
「ほっとけ」
×××
朝を迎えて、俺たちは今日中に南の国へ入ることを目標に進んでいた。
昨日と同じくモンスターは襲ってくる。
昨日と違うのは、エメリとの距離感だ。
エメリは拗ねたまま。
すぐにそっぽ向かれてしまう。
そんな俺たちを傍観している賢者は終始苦笑いを浮かべていた。
数多くのモンスターとの連戦を経て、疲労困憊の俺たちはようやく南の国に辿り着いた。
しかし、南の国を見た俺は絶句した。
「なんだ……これは?」




