第14話 『開示された記憶』
「ん……あれ?」
王城の来賓客室。
ベッドで横になっていたエメリが起き上がる。
賢者が安堵の息をする音が聞こえた。
「目が覚めたか」
「ここは……魔王は?」
「王城だ。渇望の魔王は倒した」
「ウソ!? いつの間に!?」
「お前が寝ている間だ」
渇望の魔王との戦闘が終わった直後、エメリは激しい頭痛を訴えて気を失ったのだ。
俺と賢者は急いで東の国へ戻り、国王に魔王討伐の報告とエメリを寝かせる場所を要求した。
それがここだ。
エメリは俺の包帯を巻かれた左腕を見つめ、痛々しい顔をした。
「そんな顔するな。この程度の傷で寧ろ良かったんだ」
「だが、貴様は……」
呟きを途中で止めて、エメリは口元を押さえる。
混乱しているのか頭を抱え動揺を浮かべる。
「私? 我? なんだ、私はどっちなの?」
俺はベッドの端に置かれていた椅子に腰掛け、エメリの肩に手を置く。
「落ち着け。深呼吸をしろ」
「うん、私はエメリ、エメリ……」
「そうだ。お前はエメリだ」
しばらくするとエメリは落ち着き、俺と賢者を見つめる。
「ねぇ、記憶が蘇った」
「本当か? どんな記憶だ?」
「落ち着いてブレイブ。エメリちゃんは起きばかりだ」
「ううん、大丈夫」
そうしてエメリは蘇った記憶について話し始める。
「私は渇望の魔王に会って、何か重要なことを話して協力を仰いだの。でも、渇望の魔王は私の話には信じてくれなかった。落胆はなかったわ。最初から信じてもらえるとは思ってなかったから。私は東の国を後にして……向かったのは……南の国! 南の国にいる『破壊の魔王』に会いに行ったわ」
「南の国か。他には?」
「ううん、これだけ」
「十分だ」
正直に言うと落胆はあった。
俺は魔王のことを知りたい。
しかし、開示された記憶は魔王が何かをしようとしていたことだけ。
この道を辿っていけば、いずれは魔王のことを知れるのだろうか。
壁際に立っていた賢者が言う。
「次の目的地は決まったかな」
「ああ、南の国──『破壊の魔王』だ」
エメリは思い出したように言う。
「ところで渇望の魔王の言っては記憶は?」
「魔王に関することは何も無かった」
「一杯食わされたね」
「………………」
それについては憤りがあるが、それよりも渇望の魔王の死顔が頭から離れない。
アイツはどうしてあんなに幸せそうな顔をしていたんだ。
×××
数日後。
十分な休養をとった俺たちは東の国を後にすることにした。
魔王討伐の報酬金をしっかりと受け取った。
長居する用はもうない。
エメリは不満そうだったが、多額の報酬金を見たら素直になった。
厳禁な奴だ。
城門まで来たところで呼び止められる。
「もう行くのね」
ユーリアだ。
失恋の傷はまだ癒えてないのは顔色を見ればわかる。
それでも見送りに来てくれたことには素直に感謝をしたい。
「ああ」
「貴方はこの国を救ってくれた英雄よ。それなのに大したもてなしもできなくて……」
「報酬は貰った。それに俺は英雄ってのが嫌いなんだ」
英雄ともてはやされて、調子に乗っていた過去の自分を思い出して苦い顔をしてしまう。
するとユーリアは俺のところに駆け寄って来た。
「ちょっと、耳貸して」
「なんだ?」
「いいから」
俺は体を屈める。
不意に頬に柔らかい何かが触れた。
それがユーリアの唇だと気づくのに時間はかからなかった。
ユーリアは俺から離れるとニヤリと笑みを浮かべる。
「私からのご褒美。惚れちゃダメよ?」
「誰が惚れるか」
正直驚いたのは確かだ。
「それと、ヒゲ剃ったほうが良いわよ。似合ってないから」
「余計なお世話だ」
俺たちはユーリアと別れを済ませ、王都を進んで行く。
「ねぇねぇ、ご飯食べようよ! 海の幸食べたい!」
「そういえばまだ食べてなかったね」
「そうだな。飯にするか。そろそろ酒が切れてきた」
「節制するってインニェルさんと約束したんじゃないの?」
「渇望の魔王を倒した祝いだ」
「まったく」
呆れ笑いをする賢者を見て、エメリも笑う。
その光景は酷く懐かしく思えた。




